ナチュラルボディビルとは ― 私がドーピングに頼らない理由
「ナチュラルでも、あそこまで大きくなれるんですか?」「SNSで見る身体は、みんな薬を使っているんでしょうか?」。セッションの合間やセミナーの質疑で、何度も受けてきた質問です。筋トレを続けていれば、どこかで一度は気になるテーマだと思います。
私は、ドーピング検査を行うナチュラル団体INBA/PNBAのプロ選手です。11月12日にラスベガスで行われる世界大会「Natural Olympia 2026」まで、あと1か月。朝晩の空気が冷たくなり、減量も最終段階に入ったこの時期に、「なぜ自分はナチュラルで闘うのか」を改めて言葉にしておきたいと思いました。
この記事では、ナチュラルボディビルとは何か、禁止物質と検査の考え方、私がドーピングに頼らない3つの理由、薬に頼る身体づくりのリスク、ナチュラルで伸ばすための5原則、サプリメントや市販薬で気をつけることをまとめます。誰かを責めるための記事ではありません。これから身体づくりを続けていく方が、自分で納得して道を選ぶための材料として読んでください。

ナチュラルボディビルとは ― 「使っていない」を検査で確かめる競技
ナチュラルボディビルとは、筋肉増強剤などの禁止物質を使わずに身体をつくり、その身体を競う競技の総称です。ボディビルだけでなく、私が出場しているフィジークなどのカテゴリも含めて、こう呼ばれます。
自己申告ではなく、ルールと検査で成り立つ
「ナチュラル」は、本人の宣言だけでは成り立ちません。団体が禁止物質のルールを定め、選手は検査を受けることに同意したうえで出場します。私が所属するINBA/PNBAも、ドーピング検査を行うナチュラル競技の国際団体で、その頂点にあたる世界大会がNatural Olympiaです。
何が禁止かを決める「禁止表」
何が禁止にあたるかの国際的な基準として広く使われているのが、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が定める禁止表です。WADAは1999年に設立された国際機関で、禁止表は毎年見直されます。去年まで問題のなかった成分が今年は禁止、ということも起こりえます。ナチュラル競技者は、「知らなかった」が通用しない世界にいます。
どちらが上か、という話ではない
検査を行わない大会もあり、それぞれに歴史と文化があります。私が伝えたいのは優劣ではなく、「ルールが違う別の競技」だということです。だからこそ、身体を比べるなら同じルールの中で比べる必要があります。
私がドーピングに頼らない3つの理由
理由1:自分の身体で確かめた方法を、そのままお客様に渡したいから
私は年間1,500本のパーソナルセッションを担当しています。お客様の多くは、仕事や家庭を持ちながらジムに通う方です。その方々に渡せるのは、トレーニング・食事・睡眠という、誰でも再現できる方法だけです。私自身が同じ方法だけで身体をつくっているからこそ、「このやり方で、ここまでは行けます」と言い切れます。
理由2:身体づくりを、一生続けたいから
競技は人生の一部であって、すべてではありません。私は何十年先もバーベルを握っていたいと思っています。健康を削って得た身体は、指導者として人に勧められる身体ではない、というのが私の考えです。
理由3:同じ条件で比べられる舞台に立ちたいから
全員が同じルールで、同じ検査を受けて並ぶ。そこで差がつくのは、積み重ねた年数と、日々の選択の精度です。2020年の初出場から国内大会で経験を重ね、2025年にプロカードを獲得するまで、近道はありませんでした。薬に頼らず、努力と知識だけで世界と戦う。その積み重ねでしか手に入らない身体が、確かにあると私は信じています。
薬に頼る身体づくりのリスク ― 公的機関が示していること
筋肉増強剤については、スポーツ庁が一般の筋トレ愛好家に向けても注意を呼びかけています。同庁のページ「筋肉増強剤」を知るに示されている内容を、要点だけ整理します。
- 副作用 ― 筋肉増強剤(アナボリックステロイド)は、心疾患、肝機能障害、性機能障害、倦怠感、女性化乳房、ニキビ、抜け毛などの副作用が報告されており、やめた後も後遺症による悪影響がある
- 承認 ― 日本では、筋肉増強を目的として承認されている医薬品はない
- 個人輸入 ― インターネットなどで個人輸入する場合、副作用に加えて、偽造品・不良品による健康被害のリスクがある
- 情報の偏り ― 筋肉増強を目的に薬剤を処方する医療機関もあるが、そのウェブサイトなどは効果を強調し、副作用の説明が不十分なことも多く、専門家からも危険性が指摘されている
「少しだけなら」「短期間なら」が通用しにくい理由
一般に、外からホルモンを入れると、身体は自分でつくる量を減らす方向に働くことが知られています。「やめれば元通り」とは限らないと言われるのは、このためです。私は医師ではないので、これ以上の医学的な説明はしません。ただ指導者として言えるのは、見た目の数か月と引き換えにするには、失うものが大きすぎるということです。
SNSの身体と自分を比べない
画面の向こうの身体が、どんな条件で、何年かけてつくられたのかは、見ている側には分かりません。そこに照明、パンプ、角度、減量のピークの一瞬という条件も重なります。比べる相手は、半年前の自分の記録と写真で十分です。
ナチュラルでどこまで変われるか ― 筋肉が増えるペースの目安
「ナチュラルには限界がある」とよく言われます。その通りで、筋肉が増えるペースには上限があります。ただ、ほとんどの方はその上限よりずっと手前にいます。よく知られている目安を、トレーニング歴別に並べます。
| トレーニング歴 | 筋肉が増えるペースの目安 | この時期にいちばん効くこと |
|---|---|---|
| 1年目 | 月に0.5〜1kg程度 | フォームの習得、基本種目、週2〜3回の継続 |
| 2〜3年目 | 月に0.25〜0.5kg程度 | 記録をつけて重量・回数を少しずつ伸ばす、食事量の管理 |
| 4年目以降 | 年に1〜2kg増えれば十分 | 弱点部位への配分、増量と減量の計画、回復の質 |
数字は一般的な目安で、体格・年齢・性別によって変わります。大切なのは、伸びが遅くなるのは失敗ではなく、順調に進んできた証拠だということです。私もトレーニング歴が9年を超え、1年で変わる量は初心者の頃とは比べものになりません。それでも去年の写真と並べると、確かに違います。ナチュラルの身体づくりは、月単位ではなく年単位で見るものです。
伸びが止まったと感じたときも、見直せることは必ず残っています。原因の切り分け方は筋トレの停滞期を打ち破る5つの方法にまとめています。
ナチュラルで伸ばすための5原則 ― 特別なことは何もない
私が自分の身体づくりで守り、指導でも繰り返し伝えているのは、次の5つです。
- 記録をつけて、少しずつ負荷を上げる ― 前回より1回多く、または2.5kg重く。感覚ではなく、ノートの数字で判断します
- たんぱく質を毎日確保する ― 筋肉をつけたい方の目安は体重1kgあたり1.6〜2.2g。体重70kgなら112〜154gを、3〜4食に分けて摂ります
- 睡眠を削らない ― 筋肉はトレーニング中ではなく、休んでいる間につくられます。7時間前後を目安に、起きる時間を一定にします
- 増量と減量を計画する ― 小さなカロリーの余剰でじっくり増やし、時間をかけて落とす。急ぐほど、筋肉より脂肪が動きます
- 続けられる頻度を守る ― 週6回を3か月より、週2〜3回を3年。ナチュラルの最大の武器は継続した年数です
遠回りになるNG例
- 3か月で結果が出ないと、メニューを総入れ替えする ― 変えるのは1つずつ。何が効いたのか分からなくなります
- 「効く」と聞いたサプリメントを次々に足す ― 土台の食事と睡眠が整っていなければ、上に何を乗せても変わりません
- 睡眠5時間で週6回トレーニングする ― 回復が追いつかず、量を増やすほど伸びが止まります
- SNSの身体を基準に「自分は遅い」と判断する ― 条件の分からない相手と比べても、焦りしか残りません
サプリメントと市販薬で気をつけること ― 「うっかり」を防ぐ
ナチュラル競技では、意図せず禁止物質を摂ってしまった場合でも、違反に問われることがあります。大会を目指す方は、次の表を一度確認してください。
| 場面 | 起こりうること | 対策 |
|---|---|---|
| 海外製・個人輸入のサプリメント | 表示にない成分が含まれていることがある | 国内で流通する、成分表示の明確な製品を選ぶ |
| 効果を強くうたう製品(ホルモン系・燃焼系など) | 禁止物質や、それに近い成分を含むおそれがある | 迷ったら使わない |
| 市販の風邪薬・鼻炎薬 | 興奮薬に分類される成分(エフェドリン類など)を含むものがある | 薬剤師に競技者であることを伝えて選ぶ |
| 漢方薬 | 麻黄など、禁止物質を含む生薬が配合されたものがある | 「自然由来だから安全」と考えず、成分を確認する |
| 病院で処方される薬 | 治療に必要な薬でも、禁止物質にあたる場合がある | 医師に競技者であることを伝え、団体にも事前に相談する |
プロテインやクレアチンといった基本的なサプリメントは、成分そのものは禁止物質ではありません。ただし製品の品質は別の問題なので、私は成分表示が明確な、基本的なものだけに絞っています。選び方はサプリの優先順位で、初めて大会を目指す方の準備はフィジーク大会に初めて出るにはで詳しく書いています。禁止物質の扱いは団体ごとに規程があるので、出場を決めたら、必ずその団体の最新のルールを確認してください。
よくある質問
Q. ナチュラルボディビルとは何ですか?
筋肉増強剤などの禁止物質を使わずに身体をつくり、その身体を競う競技の総称です。ボディビルだけでなく、フィジークなどのカテゴリも含まれます。本人の自己申告ではなく、団体が禁止物質のルールを定め、選手がドーピング検査を受けることを前提に成り立っている点が特徴です。出場者全員が同じ条件で比べられるため、初めて大会に出る方にも勧めやすい舞台です。
Q. ナチュラルでも筋肉は大きくなりますか?
なります。一般的な目安として、トレーニングを始めて1年目は月に0.5〜1kg程度、2〜3年目は月に0.25〜0.5kg程度のペースで筋肉が増えるといわれています。年数とともにペースは落ちますが、記録をつけて少しずつ負荷を上げ、たんぱく質と睡眠を確保すれば、身体は年単位で確実に変わります。月単位の変化で判断せず、半年前、1年前の自分と比べてください。
Q. プロテインやクレアチンはドーピングになりますか?
プロテイン(たんぱく質)やクレアチンは、成分そのものは禁止物質ではありません。ただし、海外製や個人輸入のサプリメントには、表示されていない成分が含まれている場合があり、意図せず禁止物質を摂ってしまうおそれがあります。大会を目指す方は、国内で流通している成分表示の明確な製品を選び、効果を強くうたう製品は避けてください。市販の風邪薬や漢方薬にも注意が必要です。
まとめ ― 近道がないことが、ナチュラルの価値
- ナチュラルボディビルは、禁止物質を使わないことをルールと検査で確かめる競技。禁止表は毎年見直される
- 私がドーピングに頼らない理由は、お客様に同じ方法を渡したい、身体づくりを一生続けたい、同じ条件で比べられる舞台に立ちたい、の3つ
- 筋肉増強剤には心疾患や肝機能障害などの副作用が報告されており、日本に筋肉増強を目的として承認された医薬品はない
- ナチュラルで筋肉が増えるペースは、1年目で月0.5〜1kg程度が目安。月単位ではなく年単位で見る
- やることは、記録・たんぱく質・睡眠・増量と減量の計画・継続の5つ。特別なことは何もない
- 大会を目指すなら、海外製サプリメント、市販の風邪薬、漢方薬の成分を確認する
今日できる一歩は、いまの身体を写真に撮り、主な種目の重量と回数をメモしておくことです。半年後、同じ条件でもう一度撮ってください。その差が、あなたが自分の力だけでつくった身体です。私も1か月後、ラスベガスの舞台で、9年分の積み重ねを見せてきます。
