サプリの優先順位 ― 筋トレに本当に必要なものはどれか
「サプリは何を飲めばいいですか?」「BCAAとEAA、どっちがいいんですか?」「棚を見たら種類が多すぎて、結局何も買えませんでした」。カウンセリングでサプリメントの話が出ない日はありません。SNSでは毎日のように新しい製品が紹介され、迷うのは当然です。
先に結論をお伝えすると、サプリは「全部そろえる」ものではなく、「順番」で考えるものです。年間1,500本のセッションで初心者から競技者まで見てきた実感として、身体が変わる方は飲んでいる種類が多い方ではなく、土台が整っていて、必要なものだけを毎日淡々と続けている方です。逆に、月に数万円分を飲みながら結果が出ない方は、ほぼ例外なく食事か睡眠に大きな穴があります。
この記事では、サプリの前に確認したい土台、私が指導で使っている優先順位表、まず揃える2つ、食事の穴を埋める補助、後回しでいいもの、目的別・予算別の組み合わせ例、買うとき・飲むときの注意点までをまとめます。夏の疲れが残る9月、お金と手間を本当に効くところへ回すための材料にしてください。

サプリの前に確認したい3つの土台
サプリメントは、言葉のとおり「補う」ためのものです。何を補うのかが決まっていなければ選びようがありません。私は新しくサプリを検討したい方に、まず次の3つを確認してもらっています。
土台1:1日のたんぱく質と総カロリーが目的に合っているか
筋肉を増やしたい方が、体重1kgあたり1.6g前後のたんぱく質に届いていないなら、どんなサプリより先に食事を直すべきです。逆に減量中でカロリーが極端に足りていない方は、何を飲んでも力が出ません。目安の量と摂り方はたんぱく質の必要量の記事にまとめていますので、まず自分の数字を計算してみてください。
土台2:睡眠が6時間を切っていないか
睡眠が削れている方に、私はサプリをお勧めしません。回復の材料が入っても、回復する時間がなければ使われないからです。眠る時間を30分増やすほうが、どのサプリよりも確実に効きます。
土台3:トレーニングの内容と記録があるか
重量や回数の記録がない方は、サプリを飲んで変化があったのか判断できません。「効いた気がする」で買い足していくと、種類だけが増えていきます。記録を取っていることは、サプリを検討する条件だと考えてください。この3つが整った上で、足りないところを埋めるのがサプリの役割です。
私が指導で使っている優先順位表
私はサプリを、効果の裏付けの厚さ、食事で代わりが利くか、価格に対する見返り、の3点で3つの群に分けて説明しています。
| 優先度 | 種類 | 役割 | こんな人に |
|---|---|---|---|
| 第1群(まず揃える) | プロテイン | 食事で足りないたんぱく質を補う | ほぼ全員。特に朝食が軽い方、外食が多い方 |
| 第1群(まず揃える) | クレアチン | 高強度の反復に使うエネルギーの補充を助ける | 重量を伸ばしたい方、増量期の方 |
| 第2群(穴を埋める) | マルチビタミン・ミネラル | 減量中や偏った食事の不足分を補う | 野菜・果物が少ない方、減量中の方 |
| 第2群(穴を埋める) | ビタミンD | 日光に当たらない生活で不足しやすい | 屋内勤務が中心の方、秋冬 |
| 第2群(穴を埋める) | 魚油(EPA・DHA) | 魚をほとんど食べない場合の脂質の質を補う | 魚を週2回未満しか食べない方 |
| 第2群(穴を埋める) | カフェイン | トレーニング前の集中力と出力を支える | 疲労が残る日、夕方以降に飲まない方 |
| 第3群(後回し) | BCAA・EAA | たんぱく質が足りていれば上乗せは小さい | 空腹での朝トレ、減量末期のみ検討 |
| 第3群(後回し) | グルタミン、燃焼系、ブースター系 | 効果の裏付けが弱い、または食事で代わりが利く | 基本的に不要 |
ポイントは、第1群の2つで、サプリから得られる効果の大半が取れるということです。第2群は「自分の食事にその穴があるか」で決まり、第3群は買わなくても身体づくりは進みます。
第1群:まず揃えるならこの2つ ― プロテインとクレアチン
プロテイン ― 「飲む」のではなく「足りない分を埋める」
プロテインは筋肉を増やす魔法の粉ではなく、たんぱく質を粉にした食品です。効果があるのは「食事で足りていない方」で、肉・魚・卵・大豆で目安量に届いている方には、上乗せの意味はほとんどありません。ただ、届いている方は少数です。朝食がパンとコーヒーだけ、昼は麺類、という方は、1日で50g以上足りていないことも珍しくありません。
使い方の基本は、1回20〜30gを、たんぱく質が少ない食事のタイミングに足すことです。トレーニング直後にこだわるより、朝食に1杯足すほうが1日の合計は大きく変わります。種類は、乳製品で体調を崩さないならホエイ、お腹が張りやすい方は分離タイプか大豆系、と続けられるものを選んでください。
クレアチン ― 数少ない「重量に効く」サプリ
クレアチンは、筋トレ向けサプリの中で、効果の裏付けがもっとも積み重なっている成分の一つとされています。高強度・短時間の動きに使うエネルギーの補充を助け、8回で止まっていたセットが9〜10回できる、というかたちで現れます。回数が増えれば総負荷が増え、それが筋肉の成長につながります。
飲み方は、1日3〜5gを毎日、タイミングを問わず続けるだけです。最初に多めに飲む方法もありますが、私は毎日一定量を続ける方法を勧めています。数週間で身体に行き渡り、以降は飲み続ける限り効果が保たれます。体内の水分が増えて体重が1〜2kg増えることがありますが、これは水分で、脂肪ではありません。減量中に数字が気になる方は、その点を理解した上で続けるか決めてください。水分は普段より意識して取りましょう。目安は水分補給の記事を参考にしてください。
第2群:食事の穴を埋める補助
第2群は「全員に必要」ではなく、「自分の食事にその穴があるなら効く」ものです。買う前に、直近1週間の食事を思い出してください。
マルチビタミン・ミネラルとビタミンD
減量中で食事量を絞っている時期、野菜や果物がほとんど取れていない時期には、ビタミン・ミネラルの不足が起きやすくなります。この場合は、1日分の目安量が入ったマルチビタミン・ミネラルを1つ入れておくと安心です。効果を「感じる」ものではなく、不足による不調を防ぐ保険です。
ビタミンDは、日光に当たることで身体の中でも作られる栄養素です。屋内勤務で日中ほとんど外に出ない方、日焼けを避けている方は、秋から冬にかけて不足しやすいと言われています。9月はまだ日差しがありますが、この先の季節に向けて検討する価値があります。ただし脂溶性で身体に蓄積しやすいため、表示の目安量を守り、ほかの製品との重複がないかを必ず確認してください。
魚油(EPA・DHA)
魚に含まれる脂質の成分で、健康維持の観点から一般に勧められている栄養素です。私は「魚を週2回以上食べているなら不要、ほとんど食べないなら検討」と説明しています。サバやサケを食事に入れるほうが、たんぱく質も同時に取れて効率的です。魚料理が苦手な方、外食続きで魚が食卓に上がらない方の代わりの手段です。
カフェイン
トレーニング前のカフェインは、集中力と出力を支える効果が広く知られています。コーヒー1〜2杯、量にして100〜200mg程度を、トレーニングの30〜60分前に取るのが一般的な目安です。ただし、夕方以降に取ると睡眠に響くこと、毎日取り続けると効きが鈍くなることに注意が必要です。私は「疲労が残っている日の、日中のトレーニングに限って使う」ように勧めています。夜にトレーニングする方は、仮眠や食事の見直しを優先してください。
第3群:後回しでいいもの、買う前に考えたいもの
売り場でいちばん目立つのが、実はこの第3群です。効果がないとは言いませんが、第1群・第2群と比べると見返りが小さく、そのお金は食事に回したほうが結果が出ます。
- BCAA・EAA ― たんぱく質を構成するアミノ酸そのものです。プロテインや食事でたんぱく質が足りている方には、上乗せの効果は小さいと考えています。空腹のまま朝一番にトレーニングする方、減量末期で食事量が極端に少ない方に限って検討します。
- グルタミン ― 体内で作られるアミノ酸で、一般的なトレーニーが追加で取る意味は小さいとされています。
- 脂肪燃焼系 ― 「飲めば痩せる」製品はありません。多くはカフェインなどの刺激成分が主体で、減量の土台である食事管理の代わりにはなりません。
- テストステロンブースター、ホルモン系 ― 効果の裏付けが弱いものが多く、ナチュラル競技者にとってはドーピング検査の観点からも避けるべき分野です。私は一切使いませんし、指導でも勧めません。
私自身が日常的に使っているのは、プロテインとクレアチン、減量期のマルチビタミンと魚油、そして疲れた日のコーヒーです。それ以上に増やした時期もありましたが、身体の変化に差を感じず、いまはこの形に落ち着いています。
目的別・予算別の組み合わせ例
「結局、自分は何を買えばいいのか」を決められるように、目的別に組み合わせを示します。月の予算は国内製品の一般的な価格帯を前提にした目安です。
| 目的・状況 | 組み合わせ | 月の予算目安 | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 筋トレを始めたばかり | プロテインのみ | 3,000〜5,000円 | まず朝食に1杯。3ヶ月続けて記録の変化を見る |
| 重量を伸ばしたい・増量期 | プロテイン+クレアチン | 4,000〜7,000円 | クレアチンは毎日3〜5g。水分を多めに |
| 減量中・大会に向けた調整 | プロテイン+クレアチン+マルチビタミン・ミネラル+魚油 | 6,000〜10,000円 | 食事量が減る分の穴を埋める。燃焼系は不要 |
| 忙しく朝トレが多い社会人 | プロテイン+カフェイン(コーヒーで可) | 3,000〜5,000円 | 空腹での朝トレが続くならEAAを検討 |
どの段階でも、プロテインとクレアチン以外は「足す理由」が説明できるときだけ足すのが原則です。「なんとなく良さそう」で足したものは、3ヶ月後に記録を見て変化がなければやめてください。やめることも、サプリの使い方のうちです。
買うとき・飲むときの注意点 ― 現場で見てきたNG例
最後に、私が指導の現場で実際に見てきた失敗例を3つ挙げます。
NG例1:プロテインを飲んで、食事を減らす
「プロテインを飲んでいるから、夕食は軽くていい」という方がいます。これは逆です。プロテインは食事の代わりではなく、食事に足すものです。食事を減らした分だけ総カロリーとビタミン・ミネラルが減り、結果的に身体が小さくなっていきます。コンビニ筋トレ飯の記事も参考に、まず食事を土台にしてください。
NG例2:複数の製品で同じ成分が重なっている
マルチビタミンとビタミンD単体、さらにビタミン入りのプロテインを併用して、特定の成分だけが目安量を大きく超えていた例があります。製品を増やすときは、裏面の成分表示を並べて重複を確認してください。
NG例3:成分が確認できない海外製品や「効きすぎる」製品
個人輸入の製品や、通販で見つけた「異常に効く」とうたう製品には、表示されていない成分が含まれていることがあります。ナチュラル競技者にとってはドーピング違反のリスクそのものですし、競技をしない方にとっても健康面の不安が残ります。私は、国内で流通している成分表示が明確な製品だけを使うように勧めています。
また、持病がある方や薬を飲んでいる方は、成分によっては薬との相性が問題になることがあります。飲む前に医師や薬剤師へ相談してください。いわゆる「健康食品」の考え方や注意点は、厚生労働省の「健康食品」のページにまとまっています。
よくある質問
Q. 筋トレ初心者が最初に買うべきサプリは何ですか?
最初の1つはプロテインです。食事だけでたんぱく質の目安量に届いていない方が圧倒的に多く、飲み始めた変化が身体に出やすいからです。2つ目はクレアチンで、1日3〜5gを毎日続けるだけなので扱いも簡単です。この2つ以外は、食事と睡眠を整えてから検討しても遅くありません。
Q. BCAAやEAAは飲んだほうがいいですか?
1日のたんぱく質が足りていて、トレーニング前後に食事かプロテインを取れているなら、優先度は低いと考えています。BCAAもEAAもたんぱく質に含まれるアミノ酸なので、プロテインや肉・魚・卵で足りている方には上乗せの効果が見えにくいからです。空腹のまま朝一番にトレーニングする方や、減量末期で食事量が極端に少ない方は、状況に応じて検討する価値があります。
Q. サプリは飲めば飲むほど効果がありますか?
いいえ。サプリは食事で足りない分を埋める道具で、必要量を超えた分は効果が増えるどころか、身体の負担や無駄な出費になります。特に脂溶性のビタミンやミネラルは、取りすぎに注意が必要とされています。表示された目安量を守り、複数の製品で同じ成分が重なっていないかを確認してください。持病や服薬がある方は、飲む前に医師や薬剤師に相談することをお勧めします。
まとめ ― サプリは「順番」で決める
- サプリの前に、たんぱく質と総カロリー、睡眠、トレーニングの記録という3つの土台を確認する
- 第1群はプロテインとクレアチン。この2つでサプリから得られる効果の大半が取れる
- 第2群(ビタミン・ミネラル、ビタミンD、魚油、カフェイン)は、自分の食事にその穴があるときだけ足す
- 第3群(BCAA・EAA、グルタミン、燃焼系、ブースター系)は後回し。お金は食事に回す
- 食事を減らしてサプリに置き換えない。成分の重複と、成分不明な製品に注意する
今日できる一歩は、いま家にあるサプリを全部並べて、この記事の表のどの群に入るかを書き出すことです。第1群がなければそこから揃え、第3群が並んでいるなら飲み切った時点で買い足しをやめてみてください。3ヶ月後に記録を見て、飲む種類を減らしても結果が変わらなければ、それが「本当に必要なもの」の答えです。
