筋トレ

筋トレノートのつけ方 ― 記録が最強のコーチになる理由

「先週のベンチプレス、何kgで何回やりましたか?」。セッションの最初にこう聞くと、正確に答えられる方は驚くほど少ないです。60kgだった気もするし、62.5kgだった気もする。記憶はこのくらい曖昧で、しかも都合よく書き換わります。筋トレの伸びが止まった原因を探っていくと、フォームでも食事でもなく「先週の自分を知らないこと」に行き着くケースが本当に多いのです。

私は年間1,500本のパーソナルセッションを担当していますが、担当する方全員に必ずお願いしていることが一つあります。「記録をつけること」です。私自身、トレーニングを始めて9年以上、ノートとアプリに残してきた記録は、どんな理論書よりも自分の身体のことを教えてくれました。記録は過去の自分と比べるための物差しであり、次に何をすべきかを教えてくれる、いちばん安くて正直なコーチだと思っています。

この記事では、筋トレの記録に何を書けばいいのか、1回分のノートの書き方の実例、ノートとアプリの選び方、そして記録を「書くだけ」で終わらせず翌週の重量設定に活かす見返し方まで、現場で使っている形をそのままお伝えします。10月に入り、朝晩が涼しくなってジムに通いやすい季節です。年末までの3か月を「なんとなく」で過ごすか、数字で積み上げるか。その分かれ道は、ノートの1ページ目にあります。

机の上に開かれた白い記録用ノートとグレーのペン。今日の目標と振り返りを書き込む欄が印刷されている

筋トレの記録をつけるべき3つの理由 ― 記憶は当てにならない

筋肉が大きく、強くなるための大原則は「漸進性過負荷」です。前回より少しだけ重く、あるいは少しだけ多く。この「少しだけ」の積み重ねで身体は変わりますが、「前回」を正確に覚えていなければ、「少しだけ増やす」は成立しません。

理由① 「前回より少し」は、記録があって初めて成立する

2.5kgの差、1回の差は、記憶の中では簡単に消えます。種目数が増えると、先週のラットプルダウンの重量を覚えている人はほぼいません。結果として毎回「だいたいこのくらい」の重量で同じ回数をこなし、身体には同じ刺激しか入らない。この状態が数か月続いてから「伸びない」と相談に来られる方が、実際にとても多いのです。

理由② 「伸びていない気がする」の正体が分かる

体重も見た目も変わらない時期でも、記録を見返すと「スクワットは8週間で10kg伸びている」ことが分かります。逆に、順調だと思っていたのに、実は3週間同じ重量・同じ回数で止まっていた、ということもあります。停滞の見分け方は停滞期を打ち破る5つの方法で詳しく書きましたが、あの診断はすべて記録が前提です。記録がなければ、本当の停滞と気分の停滞の区別がつきません。

理由③ 数字が伸びる楽しさが、続ける燃料になる

筋トレがいちばん挫折しやすいのは、見た目がまだ変わらない最初の2〜3か月です。この時期を支えるのは、鏡ではなく数字です。先週より2.5kg重いバーが挙がった、先月より2回多くしゃがめた。この実感が、やる気を自分の中から湧かせてくれます。トレーニングを習慣にする5つのコツでも触れましたが、長く続いている人はほぼ例外なく記録を残しています。

筋トレの記録に何を書くか ― 必須5項目と、余裕があれば足す項目

最初にお伝えしたいのは、「項目を増やしすぎない」ことです。細かく記録しようとして3日で挫折するくらいなら、5項目だけを1年続けたほうがはるかに価値があります。

優先度項目書き方の例なぜ必要か
必須日付・曜日10/5(月)頻度と間隔を把握する
必須種目ベンチプレス同じ種目同士で比べるため
必須重量60kg漸進性過負荷の基準になる
必須回数(セットごと)8・8・7セット単位の落ち方が分かる
必須セット数3セット総ボリュームの計算に使う
推奨きつさ(RPE)RPE8(あと2回できた)同じ重量でも「余裕」の変化が伸びを示す
推奨体重朝・トイレ後に70.4kg増量・減量の進み具合と重量の関係を見る
推奨睡眠時間・体調6.5h・肩に違和感なし数字が落ちた日の理由を後から追える
任意気づき手幅を指1本広げたら肩が楽次回に持ち越す修正点
任意休憩時間2分条件をそろえて比較するため

RPEとは、そのセットのきつさを10段階で表す指標で、「10=限界」「8=あと2回はできた」のように使います。数字が苦手なら「余裕あり/ぎりぎり/潰れた」の3段階でもかまいません。同じ60kg×8回でも「余裕で8回」と「ぎりぎり8回」では意味がまるで違う。この差を残せるかどうかで、記録の価値は倍になります。

1回分のノートはこう書く ― 3分で終わる書き方の実例

私がセッションで使っている形をそのまま載せます。手書きでもスマホのメモでも同じ形で書けます。1行目にその日の条件、次に種目ごとの数字、最後に一言です。

10/5(月)胸・三頭 体重70.4kg 睡眠6.5h 肩の違和感なし

種目重量×回数RPEメモ
ベンチプレス60×8・8・78・8・93セット目で左肩が先に上がる。次回も60kg
インクラインダンベルプレス22×10・10・98次回24kg ↑
ケーブルフライ15×15・157次回17.5kg
プレスダウン25×12・12・1093セット目は22.5kgに落とす

最後に「3セット目がだれた。前日の睡眠が短かったせいか」のように1行書いて終わりです。この1行が、あとで「なぜあの週は落ちたのか」を教えてくれます。

記号のルールを決めておく

  • 重量×回数は「60×8・8・7」のように、セットごとの回数を「・」でつなぐ
  • きつさは「RPE8」または「余・ぎ・潰」の1文字。全セット同じなら1回でよい
  • 前回との比較は種目の横に「↑」「→」「↓」。気づきは次回そのまま実行できる形で書く

書く順番 ― トレーニング前・セット間・最後の一言

  1. トレーニング前:前回のページを見て、今日の目標重量と回数を先に書いておく。「62.5×8を3セット」のように、埋めるだけの状態にする
  2. セット間:休憩中に回数ときつさを書き込む。10秒で書ける形にしておく
  3. 終わったあと:1行だけ振り返りを書く。体調・フォーム・次回の変更点のどれか1つでよい

これで1回のトレーニングにつき、書く時間は3分もかかりません。長くかかる人は、項目が多すぎるか、ペンやアプリを探す時間が長いかのどちらかです。

ノートかアプリか ― 手書き・スマホ・スプレッドシートの比較

「筋トレの記録アプリは何がいいですか」という質問もよく受けますが、道具の優劣より「自分が続けられるか」で選ぶべきです。

方法向いている人長所短所
手書きノート初心者。書くことで意識が変わるタイプ自由度が高い。書く動作そのものが振り返りになる集計と検索に手間がかかる。なくすと終わり
スマホのメモアプリ今日から始めたい人常に持っている。前回分をコピーして数字だけ直せる集計やグラフ化ができない
筋トレ記録アプリ種目が増えた中級者前回の記録が自動表示。総ボリュームやグラフを自動計算セット間にスマホを見る時間が増える。サービス終了のリスク
スプレッドシート自分で設計したい人。競技者完全に自由。データが手元に残る入力がやや手間。スマホでは見づらい

私の答えは「続けられるものが正解」ですが、あえて言えば、初心者には手書きから始めることを勧めています。書くという動作が「今日は何をどれだけやったか」を一度頭に通してくれるからです。集計が面倒になったら、アプリやスプレッドシートに移ればいい。逆に、最初からアプリの項目をすべて埋めようとして、1か月で開かなくなる方をよく見ます。

アプリを使う場合の注意は3つ。セット間にSNSを開かないこと(休憩が5分に延びている人は本当に多い)、月に1回はエクスポートか画面の撮影でデータを外に出すこと、アプリの「おすすめメニュー」に乗り換えず種目を自分で固定すること。手書きの人も、ページを写真に撮っておけばなくしても残ります。

記録を「使う」技術 ― 見返し方と翌週の重量の決め方

記録の価値は、書くことではなく、見返して次の判断に使うことにあります。ノートは何冊も溜まっているのに、重量は1年前と同じ、という方を何人も見てきました。見返すタイミングは「毎回のトレーニング前」と「4週間ごと」の2つです。

セッション前の30秒 ― 前回のページを見てから始める

ジムに着いて最初にやることは、前回のページを開くことです。目標がある日は、最後の1回を粘れる。目標がない日は、きつくなったところでやめてしまう。この30秒の差が、その日のトレーニングの中身を変えます。

翌週の重量を決めるルール ― 私が使っている3つの判断基準

  • 全セットが目標回数に届き、きつさがRPE8以下 → 次回は重量を上げる。目安は上半身の種目で2.5kg、下半身の種目で5kg。細かい重量がなければ回数を1回増やす
  • 目標回数に届かないセットがあった → 重量は据え置き。全セット目標回数に届くまで回数を伸ばす
  • 2〜3週続けて同じ重量・同じ回数で止まり、きつさがRPE9〜10 → 重量を5〜10%下げて回数を積み直すか、1週間負荷を落とすディロードを入れる

このルールがあると、「今日は何kgでやろう」と迷わなくなります。判断は先週の自分が済ませてくれているからです。

4週間ごとの振り返り ― 総ボリュームと推定1RM

月に1回、種目ごとに2つの数字を出してみてください。1つは総ボリュームで、重量×回数×セット数です。ベンチプレス60kg×8回×3セットなら1,440kg、翌月に62.5kg×8回×3セットになれば1,500kg。もう1つは推定1RM(1回だけ挙げられる最大重量の推定値)で、よく使われる目安の式は「重量×(1+回数÷30)」です。60kg×8回なら約76kg。あくまで目安ですが、種目ごとの伸びを1つの数字で追えます。

この2つで伸びている種目と止まっている種目を仕分けし、止まっている種目にだけ手を打つ。これが記録を「使う」ということです。ベンチプレスの伸ばし方はベンチプレス100kgへのロードマップに段階ごとにまとめています。

現場で見てきたNG例と、記録で伸びる人の共通点

NG例

  • 書くだけで見返さない。ノートが日記になっている。書く目的は次の判断のため
  • 項目が多すぎて挫折する。心拍数やテンポまで書こうとして3日で終わる。まず5項目
  • 良い日しか書かない。落ちた日の記録こそ原因を教えてくれる。悪い日の数字は財産
  • 重量だけ書いて回数を書かない。「60kg」だけでは8回なのか3回なのか分からない
  • 他人の記録と比べる。比べる相手は先月の自分だけ

記録で伸びる人の共通点

  • 種目を固定している。BIG3のような基本種目を軸にすると、比較の土台ができて記録が活きる
  • トレーニング前に前回のページを開く習慣がある
  • 悪い日にも1行書く。「今日は無理をしなかった」も立派な記録
  • 月に1回、数字を見て翌月の方針を1つ決める

私自身の記録の習慣

私は今、11月のNatural Olympiaに向けて減量の終盤にいます。減量期はどうしても重量が落ちる時期があり、記録がなければ「調子が悪い」で片づけてしまいがちです。記録があれば「体重が2kg落ちた割に、ベンチプレスは2.5kgしか落ちていない。想定内」と判断できますし、落ち幅が大きければ食事や睡眠を見直すサインになります。

毎日書いているのは、朝の体重、睡眠時間、その日の種目と重量・回数・きつさ、そして1行の振り返りです。9年分のノートとデータは、私にとって自分の身体の取扱説明書です。どの重量で肩に違和感が出やすいか、睡眠が何時間を切ると数字が落ちるか、全部そこに書いてあります。

よくある質問

Q. 筋トレの記録はアプリとノートのどちらがいいですか?

続けられるほうが正解です。あえて勧めるなら、初心者は手書きのノートから始めてください。書くという動作が「今日は何をどれだけやったか」を一度頭に通してくれるので、記録そのものが振り返りになります。種目と数字が増えて集計が面倒になったら、前回の記録を自動表示してくれる記録アプリやスプレッドシートに移れば十分です。どちらでも、セット間にSNSを開かないこと、月に1回はデータを写真やエクスポートで残すことは守ってください。

Q. 筋トレの記録は何を書けばいいですか?

最低限は日付、種目、重量、セットごとの回数、セット数の5項目です。これだけで「前回より少し重く、少し多く」という漸進性過負荷の判断ができます。余裕があれば、そのセットのきつさ(RPE、または余裕あり・ぎりぎり・潰れたの3段階)と朝の体重、睡眠時間を足してください。同じ60kg×8回でも「余裕で8回」と「ぎりぎり8回」では意味が違うので、きつさの記録があると翌週の重量設定の精度が上がります。

Q. 筋トレの記録をつけるのが面倒で続きません。どうすればいいですか?

原因は、書く項目が多すぎるか、書くタイミングが決まっていないかのどちらかです。項目を日付・種目・重量・回数・セット数の5つに絞り、書くタイミングを「セット間の休憩中」に固定してください。終わってからまとめて書こうとすると、忘れるうえに面倒に感じます。前回のページを見て今日の目標重量を先に書いておけば、あとは回数を埋めるだけで、1回3分もかかりません。悪かった日こそ書く、書き忘れても翌回から再開する。この2つを決めておけば続きます。

まとめ ― 記録は「昨日の自分」という最高のコーチ

  • 筋トレの伸びは「前回より少し」の積み重ね。前回を正確に知るために記録が要る
  • 書くのは日付・種目・重量・回数・セット数の5項目から。余裕があれば、きつさ・体重・睡眠を足す
  • トレーニング前に目標を書き、セット間に数字を埋め、最後に1行。1回3分で終わる
  • 道具は続けられるものが正解。初心者は手書きから、慣れたらアプリやスプレッドシートへ
  • 全セット達成なら重量を上げ、届かなければ据え置き、止まったら下げて積み直す。月に1回、総ボリュームと推定1RMで種目を仕分けする

行動の一歩として、次のトレーニングの最初に、前回の重量と回数を思い出してみてください。思い出せなかったら、それが記録を始める理由です。日付と種目と数字だけを、今日から書き始めましょう。年末に見返したとき、3か月分のページがあなたのいちばん正直なコーチになっています。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。持病やケガのある方は、医師や専門家に相談のうえでトレーニングを行ってください。
井坂貴大
井坂 貴大(いさか たかひろ) INBA/PNBA 日本国内初プロカード。日本人初・2年連続で世界大会「Natural Olympia」出場。Tokyo Nanobody Lab(六本木)/プロフィットジム(つくば)オーナー。プロフィール詳細 →
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