筋トレ前のウォームアップの正解 ― ケガを防ぐ10分の手順
ジムに着いたら着替えてそのままベンチプレスの台へ向かい、1セットめから本番の重量を載せる。年間1,500本のセッションを担当していると、こういう方を毎日のように見かけます。理由を聞くと「時間がもったいないから」「アップで疲れたくないから」。一方で、肩や腰を痛めて相談に来られる方に話を聞くと、「あの日はアップを省いていた」というケースが少なくありません。
逆に、ウォームアップに熱心な方にも落とし穴があります。床に座って10分以上じっくりストレッチをする。ランニングマシンで20分走ってから筋トレに入る。どちらも準備のつもりが、肝心の本番で出せる力を落としている可能性があります。
この記事では、筋トレ前のウォームアップを「温める・動かす・慣らす」の3ステップで整理し、動的ストレッチの具体的なメニュー、ウォームアップセットの重量の上げ方、寒い日や時間がない日の調整、現場で見てきたNG例までをまとめます。10月に入り、朝晩の空気がひんやりしてきました。身体が温まりにくくなるこれからの季節こそ、最初の10分の使い方がケガと記録の差になります。

ウォームアップの目的は3つ ― 温める・動かす・慣らす
ウォームアップは「なんとなく身体をほぐす時間」ではありません。目的は次の3つで、それぞれに合う手段が違います。
① 体温と筋温を上げる
筋肉は、温まると伸び縮みしやすくなり、力も出しやすくなることが知られています。冷えたゴムは切れやすく、温めたゴムはよく伸びる。あのイメージです。軽く息が弾み、うっすら汗ばむ程度まで身体を動かすと、この状態になります。
② 関節の可動域を確保する
スクワットなら足首と股関節、ベンチプレスなら肩甲骨と胸椎(背骨の胸の部分)。その日の種目に必要な関節が動かないまま重量を持つと、動かない関節の代わりに腰や肩、膝が無理をします。私が現場で見るケガの多くは、筋力不足というより、この「代わりに無理をした部位」に起きています。
③ 神経と動作を慣らす
重いバーベルを正しい軌道で動かすには、筋肉だけでなく、筋肉に指令を出す神経の準備も必要です。軽い重量で同じ動作を繰り返すとフォームが整い、本番の1セットめから力を出し切れるようになります。同時に、「今日は右肩が引っかかる」「股関節が固い」といった、その日の調子を確認する時間にもなります。
つまりウォームアップは、ケガの予防であると同時に、その日の記録を伸ばすための準備です。「アップをすると疲れて重量が落ちる」という方は、アップが不要なのではなく、やり方が合っていないだけです。
筋トレ前のウォームアップは3ステップ・10分で組む
3つの目的に、3つのステップを対応させます。私が指導で使っている基本形は、合計10分前後です。
| ステップ | 内容 | 時間 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 1. 温める | バイク・早歩き・ローイングなどの軽い有酸素運動 | 3〜5分 | 会話ができる強さで、うっすら汗ばむまで |
| 2. 動かす | その日の種目で使う関節の動的ストレッチ4〜5種目 | 3〜5分 | 各10回前後。反動をつけすぎない |
| 3. 慣らす | 本番の種目を軽い重量から段階的に上げるウォームアップセット | 3〜5分 | 2〜4セット。疲れを残さない |
順番には意味があります。身体が冷えたまま関節を大きく動かしても可動域は出にくく、可動域が出ないままバーを持ってもフォームは整いません。温める→動かす→慣らす、の順で進めてください。
ステップ1で汗だくになる必要はない
全身を温める段階は、会話ができる程度の強さで3〜5分が目安です。ジムまで10分以上歩いて来た方は、短くするか省いても構いません。逆に、ここで20分も30分も走ると、筋トレで使うはずのエネルギーと集中力が先に減ってしまいます。脂肪を落とす目的の有酸素運動は、筋トレのあとに回すのが基本です。
動的ストレッチのメニュー ― 下半身の日・上半身の日
動的ストレッチとは、関節を大きく動かしながら可動域を広げていく方法です。じっと伸ばして止める静的ストレッチとは目的が違います。2つの使い分けは運動前後で違う!ストレッチの正しい使い分けの記事で書きました。ここでは、その日の種目に合わせた具体的なメニューを紹介します。
下半身の日(スクワット・デッドリフトなど)
- レッグスイング(前後・左右 各10回) ― 壁や柱に手を添え、片脚を振り子のように振ります。股関節を大きく動かす準備です。
- ランジ+上体のひねり(左右5回ずつ) ― 大きく一歩踏み出して腰を落とし、前に出した脚の側へ上体をひねります。股関節の前側と胸椎を同時に動かせます。
- 足首のモビリティ(片脚10回ずつ) ― 壁に向かって片脚を前に出し、かかとをつけたまま膝を壁に近づけます。
- ヒップリフト(10〜15回) ― 仰向けで膝を立て、お尻を締めて腰を持ち上げます。お尻の筋肉を目覚めさせる種目です。
- 自重スクワット(10回) ― しゃがむ深さと膝の向きを確認しながら、ゆっくり行います。
スクワットで膝に不安がある方は、スクワットで膝が痛い原因と直し方で紹介した足首・股関節・お尻の準備を重点的に行ってください。
上半身の日(ベンチプレス・懸垂・ショルダープレスなど)
- 腕回し(前後 各10回) ― 小さな円から始めて、徐々に大きく回します。
- キャット&カウ(10回) ― 四つ這いで背中を丸める・反らせるを繰り返し、背骨と肩甲骨を動かします。
- 胸椎の回旋(左右10回ずつ) ― 四つ這いで片手を頭の後ろに当て、肘を天井に向けて開きます。
- バンドプルアパート(15回) ― ゴムバンドを胸の前で左右に引き、肩甲骨を寄せます。バンドがなければ、壁に手をついて肩甲骨だけで押す・寄せる動きで代用できます。
- 腕立て伏せ(5〜10回) ― 膝をついても構いません。押す動作の予行演習です。
プレス種目で肩に違和感が出やすい方は、ベンチプレスで肩が痛い原因と対策も参考にしてください。
静的ストレッチは「禁止」ではない
運動前に1つの部位を長く伸ばし続けると、一時的に筋力が発揮しにくくなることが知られています。ただし、短い静的ストレッチまで避ける必要はありません。ふくらはぎや股関節の前側など、固くて動作の邪魔になる部位がある方は、20〜30秒ほど軽く伸ばしてから動的ストレッチに移ってください。「伸ばして終わり」にせず、「伸ばしたあとに動かす」のがポイントです。
ウォームアップセットの組み方 ― 重量の上げ方の目安
3つのステップの中で、もっとも省いてはいけないのがウォームアップセットです。本番と同じ種目を、軽い重量から段階的に上げていきます。その種目で使う筋肉と関節を、その種目の動きで準備する。これ以上に的を射た準備はありません。
| 段階 | 重量の目安 | 回数 | 本番60kgの例 | 本番100kgの例 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | バーのみ | 10回 | 20kg | 20kg |
| 2 | 本番の約50〜60% | 5回 | 35kg | 60kg |
| 3 | 本番の約80% | 2〜3回 | 50kg | 80kg |
| 4 | 本番の約90%(高重量の日のみ) | 1回 | ― | 90kg |
| 本番 | 100% | 予定の回数 | 60kg | 100kg |
回数は減らしながら、重量を上げる
重量を上げるほど回数を減らすのがコツです。ウォームアップセットの目的は、筋肉を疲れさせることではなく、重さに身体を慣らすこと。どのセットも、まだ何回もできる余裕を残して終えてください。セット間の休憩は30秒〜1分で十分で、本番の直前だけ1〜2分あけます。
2種目め以降は1セットでいい
同じ部位の2種目め、3種目めは、すでに筋肉が温まっています。本番の50〜60%で5回ほどを1セット行い、動きを確認すれば十分です。ただし、胸の種目のあとに脚の種目を行うなど部位が変わるときは、その部位の動的ストレッチを1〜2種目足し、ウォームアップセットも丁寧に刻んでください。
マシンやダンベルの種目でも同じ
マシンだからウォームアップは不要、ということはありません。本番の半分ほどの重量で10回、軌道とシートの位置を確認するセットを1つ入れます。
状況別の調整 ― 寒い日・朝トレ・時間がない日
気温が下がる秋冬
これからの季節は、ジムに着いた時点の身体が夏より冷えています。ステップ1を2〜3分長くし、上着を着たまま始めて、温まってから脱いでください。ウォームアップセットも1段階増やし、軽い重量での回数を多めにとると安心です。
朝のトレーニング
起床後しばらくは体温が低く、関節も固い状態です。朝にトレーニングをする方は、ステップ1と2を合わせて10分ほど確保し、特に背骨と股関節を念入りに動かしてください。夕方と同じ感覚で、いきなり高重量に入るのは避けたいところです。
時間がない日の「5分版」
どうしても時間がない日は、次の形まで削れます。
- その日の種目に合わせた動的ストレッチを2種目(約2分)
- 1種目めのウォームアップセットを2〜3セット(約3分)
削るならステップ1と動的ストレッチの種目数で、ウォームアップセットは残す。これが優先順位です。ウォームアップを全部省いて節約できるのは10分ですが、ケガで数週間休めば、その何十倍もの時間を失います。
デスクワークのあと・40代以降の方
長時間座ったあとは、股関節の前側と胸椎が固まっています。年齢を重ねると、温まるまでに時間がかかる傾向もあります。当てはまる方は、動的ストレッチを1〜2種目多めに行い、重量の上げ幅を小さく刻んでください。
現場で見てきたNG例と、私自身のウォームアップ
NG例
- いきなり本番の重量を持つ → 1セットめがウォームアップ代わりになり、フォームが整わないまま高い負荷がかかる
- 静的ストレッチだけを10分行う → 身体は温まらず、力も出にくくなる。動かす準備に切り替える
- ランニングマシンで20分走ってから筋トレに入る → 本番の前に疲れてしまう。温めるのは3〜5分で足りる
- ウォームアップセットを限界近くまで行う → 本番の回数が落ちる。余裕を残し、回数を減らしていく
- 毎回同じ体操を流すだけ → その日の種目と関係のない準備になっている。種目に合わせて選ぶ
- 違和感を「アップ不足」と決めつけて重量を足す → 痛みは準備不足のサインとは限らない。その日は重量を落とすか、種目を変える
私自身のウォームアップ
私は競技を9年続けてきましたが、今もその日の1種目めは必ずバーだけのセットから始めます。バーだけの10回は、私にとって「点検」の時間です。肩の引っかかり、股関節の詰まり、左右の差。ここで違和感があれば、その日の重量や種目を変えます。11月のNatural Olympiaに向けた減量の終盤である今は、食事量が少なく、疲労も抜けにくい時期です。だからこそ、普段より重量の上げ幅を小さく刻むようにしています。
セッションでも、最初の10分は必ずウォームアップに使います。その10分の動きを見れば、その方のその日の調子と、メニューをどう調整すべきかが分かるからです。ウォームアップは本番の前座ではなく、トレーニングの一部です。
よくある質問
Q. 筋トレ前のウォームアップは何分くらいが目安ですか?
合計10分前後が目安です。軽い有酸素運動で全身を温めるのに3〜5分、その日の種目に合わせた動的ストレッチに3〜5分、本番の種目を軽い重量から段階的に上げるウォームアップセットに3〜5分です。気温が低い日や朝のトレーニング、高重量を扱う日は長めにとり、時間がない日は動的ストレッチ2種目とウォームアップセットだけの5分版まで短縮できます。
Q. 筋トレ前に静的ストレッチをしてはいけませんか?
禁止ではありません。1つの部位を長く伸ばし続けると一時的に筋力が発揮しにくくなることが知られていますが、20〜30秒ほどの短い静的ストレッチであれば影響は小さいといわれています。固くて動作の邪魔になる部位だけを軽く伸ばし、そのあとに動的ストレッチとウォームアップセットで身体を動かしてください。じっくり伸ばす静的ストレッチは、トレーニング後や寝る前に行うのが向いています。
Q. ウォームアップをすると疲れて本番の重量が落ちませんか?
正しく行えば落ちません。疲れてしまう原因の多くは、有酸素運動が長すぎるか、ウォームアップセットの回数が多すぎるかのどちらかです。全身を温めるのは会話ができる強さで3〜5分、ウォームアップセットは重量を上げるごとに回数を10回、5回、2〜3回と減らし、どのセットも余裕を残して終えてください。身体が温まり動作が整うことで、1セットめから力を出しやすくなります。
まとめ ― ウォームアップは「温める・動かす・慣らす」の10分
- ウォームアップの目的は、体温と筋温を上げる・関節の可動域を確保する・神経と動作を慣らすの3つ
- 基本形は、軽い有酸素運動3〜5分→動的ストレッチ3〜5分→ウォームアップセット3〜5分の合計10分前後
- 動的ストレッチは、その日の種目で使う関節に合わせて4〜5種目を選ぶ
- ウォームアップセットは、バーのみ→約50〜60%→約80%と上げ、回数は10回→5回→2〜3回と減らす
- 静的ストレッチは固い部位だけを短く。じっくり伸ばすのはトレーニング後に
- 寒い日・朝・高重量の日は長めに。時間がない日も、ウォームアップセットだけは省かない
今日できる一歩は、次のトレーニングの1種目めで、本番の重量を載せる前に「バーだけで10回」を行うことです。朝晩が冷え込んでいくこれからの季節、最初の10分を丁寧に使うことが、冬を越えてトレーニングを続けるいちばんの保険になります。
