ヘルスケア

筋トレ前のカフェイン ― 摂取量とタイミング、睡眠との両立

「トレーニング前にコーヒーを飲むと調子がいいんですが、何杯まで飲んでいいんでしょうか」「夜のジムの前にエナジードリンクを飲んだら、その日は夜中の2時まで眠れませんでした」。カフェインについて受ける相談は、ほぼこの2つに集約されます。効かせたい、でも眠りは壊したくない。どちらももっともな悩みです。

カフェインは、トレーニングのパフォーマンスを支える成分として世界中で広く使われていて、コーヒーやお茶という形で誰でもすぐ手に入ります。ただ、使い方を間違えると、その日の1セットと引き換えに、その夜の睡眠という回復の土台を削ることになります。年間1,500本のセッションを担当していると、「カフェインに頼るほど疲れが抜けなくなっている」方に必ず出会います。

この記事では、カフェインが筋トレに効く仕組み、摂取量の目安、飲み物別の含有量、筋トレ前のタイミング、そして睡眠と両立させる「締め切り時刻」の決め方まで、指導の現場で伝えている形でまとめます。朝晩が冷え込み、温かいコーヒーがおいしい季節になりました。秋の夜長にしっかり眠るためにも、一杯の使いどころを整理しておきましょう。

濃い色の木のテーブルに置かれた白いマグカップのコーヒーを真上から写した写真

カフェインが筋トレに効く理由 ― 「疲れ」の感じ方を変える

私たちの脳には、起きている時間が長くなるほど「アデノシン」という物質がたまり、これが受容体に結びつくことで眠気や疲労感が生まれると考えられています。カフェインはこの受容体に先回りして結びつき、眠気や疲労のサインを一時的に感じにくくします。つまりカフェインは、エネルギーを足しているのではなく、疲れの感じ方を変えているのです。

期待できること

  • 眠気がやわらぎ、目の前のセットに集中しやすくなる
  • 同じ重量でも「きつさ」を軽く感じやすく、最後の1〜2回を粘りやすい
  • 有酸素運動などの持久系の運動で、ペースを保ちやすい

いずれも一般的に報告されている作用ですが、効き方には大きな個人差があります。コーヒー1杯で目がさえる方もいれば、3杯飲んでも平気で眠れる方もいます。

期待できないこと

  • 筋肉を直接増やす作用はない。増やすのは、あくまでトレーニングと食事と睡眠
  • 飲むだけで脂肪が落ちることはない。「燃焼系」をうたう製品の多くはカフェインが主体だが、食事管理の代わりにはならない
  • 睡眠不足は帳消しにならない。感じにくくなるだけで、疲労そのものは残っている

サプリメント全体のなかでの位置づけはサプリの優先順位でも整理しましたが、カフェインは「土台が整っている人が、ここぞの日に使う道具」です。土台の代わりにはなりません。

カフェインの摂取量の目安 ― 1日の上限と1回の量

最初に知っておきたいのは、カフェインには日本でも国際的にも「1日の許容摂取量」が設定されていないことです。感受性の個人差が大きいためです。そのうえで、海外の公的機関が示している目安が参考になります。日本語では、厚生労働省の食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&Aにまとめられています。

対象目安示している機関の例
健康な成人1日400mgまで(コーヒーならマグカップ約3杯)カナダ保健省など
妊娠中の方1日200〜300mgまで英国食品基準庁(200mg)、カナダ保健省(300mg)
子ども(4〜6歳)1日45mgまでカナダ保健省
成人の1回あたり体重1kgあたり3mgまで(体重70kgで約200mg)欧州食品安全機関(EFSA)

過剰に摂ると、めまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠、下痢、吐き気などが起こることがあるとされています。私が指導でお伝えしている基準はシンプルです。

  • 1日の合計は400mgを上限に、ふだんは200〜300mgに収める
  • 1回に摂るのは200mgまで
  • 動悸や手の震え、胃のむかつきが出たら、その量は自分には多い。目安の数字より身体の反応を優先する

妊娠中・授乳中の方、心臓や血圧の持病がある方、薬を服用中の方は、自己判断で増やさず、主治医に相談してください。

飲み物別のカフェイン量 ― コーヒー1杯は何mgか

量を管理するには、自分が何からどれだけ摂っているかを知る必要があります。主な飲み物の目安です。

飲み物100mlあたり1杯あたりの目安
コーヒー(ドリップ)60mgカップ150mlで約90mg、マグカップ250mlで約150mg
インスタントコーヒー―1杯で約80mg
紅茶30mgカップ150mlで約45mg
せん茶・ウーロン茶20mg湯のみ150mlで約30mg
玉露160mg飲む量は少ないが濃度が高い(60mlで約100mg)
エナジードリンク32〜300mg製品差が非常に大きい。必ず表示を確認

数字はいれ方や製品で変わりますが、「コーヒー1杯=約100mg」と覚えておくと計算が楽です。

見落としやすいカフェイン

  • プレワークアウト系のサプリメント。1回分で200mg前後、あるいはそれ以上を含む製品もある
  • 「燃焼系」のサプリメント、眠気覚ましのドリンクや錠剤
  • ペットボトルのお茶、コーラ、抹茶、高カカオのチョコレート

朝にコーヒー2杯、昼に1杯、午後にペットボトルの緑茶、ジムの前にプレワークアウト。こう並べると、本人に自覚がないまま400mgを超えていることがあります。一度、1日分を書き出してみてください。

筋トレ前のカフェイン ― タイミングと量の決め方

カフェインは、飲んでから30〜60分ほどで血中濃度が高まるとされています。ですから、トレーニング開始の30〜60分前に摂るのが基本です。ジムに着いてから飲むのでは、メインの種目が終わるころにようやく効いてくる計算になります。

量は体重1kgあたり1.5〜3mgから

スポーツの研究では体重1kgあたり3〜6mgという量がよく使われますが、体重70kgなら210〜420mgにあたり、1回でそこまで摂る必要はないと私は考えています。まずは体重1kgあたり1.5〜3mg。体重60kgなら90〜180mg、70kgなら105〜210mgで、コーヒーにして1〜2杯です。この量で十分に体感できる方がほとんどです。

実際の手順

  1. 最初はコーヒー1杯(約100mg)を、開始45分前に飲む
  2. その日の集中力、きつさの感じ方、夜の寝つきを記録しておく
  3. 物足りなければ、次回は1.5〜2杯に増やす。1回200mgは超えない
  4. 動悸や胃の不快感が出たら量を戻す。空腹だと胃が荒れる方は、軽食と一緒に摂る

コーヒーが苦手な方は、紅茶や緑茶でもかまいません。エナジードリンクやプレワークアウトを使う場合は、表示のカフェイン量を必ず確認し、その日のコーヒーと合算してください。そして、大会や記録測定のような大事な日に、初めての量を試さないこと。これは食事と同じです。

睡眠と両立させる「締め切り時刻」 ― 半減期から逆算する

カフェインの血中濃度が半分になるまでの時間(半減期)は、健康な成人で4〜6時間ほどと言われ、個人差があります。仮に5時間とすると、17時に200mgを摂った場合、22時の時点でまだ約100mg、コーヒー1杯分が身体に残っている計算です。「飲んでも眠れる」という方でも、眠りが浅くなっている場合があると言われています。

そこで私は、カフェインは就寝の8時間前まで、遅くとも14時までを締め切りにするよう勧めています。睡眠の質を上げる7つの習慣でも書いたルールです。これをトレーニングの時間帯に当てはめると、次のようになります。

トレーニングの時間帯カフェインの使い方補足
朝(6〜9時)開始30〜60分前にコーヒー1杯睡眠への影響がいちばん小さい。使うならこの時間帯が理想
昼(11〜14時)開始30〜60分前に1〜2杯。14時が締め切り昼食後の眠気対策も兼ねられる
夕方(16〜18時)原則使わない。使うなら緑茶1杯程度寝つきに影響が出る方は完全にやめる
夜(19時以降)使わない軽食・仮眠・ウォームアップで代用する

夜にトレーニングする方の、代わりの手段

  • 16〜17時に軽食を入れる。おにぎりやバナナで十分。夜の「だるさ」の正体は、眠気ではなく空腹であることが多い
  • 昼休みに15〜20分の仮眠を取る。直前にコーヒーを飲んでから眠る方法はパワーナップの正しいやり方で紹介しています
  • ウォームアップを丁寧に行う。軽い重量から段階的に上げて身体を起こす。テンポの速い音楽も助けになる
  • デカフェや炭酸水に置き換える。「一杯飲んでから始める」という習慣だけを残す

夜のトレーニングでカフェインに頼り、眠りが浅くなり、翌日の疲れをまたカフェインで押さえる。この循環に入っている方は本当に多いです。身体が回復して筋肉が育つのは、トレーニングのあとの休んでいる時間です。1回のトレーニングの出来より、毎晩の睡眠を優先してください。

効かなくなってきたら ― 耐性と「カフェインを休む」期間

カフェインは毎日摂り続けると身体が慣れ、同じ量では効きを感じにくくなります。そこで量を増やすと、睡眠が削られ、さらに疲れる。量で解決しようとしないことが大切です。

使う日を選ぶ

私が勧めているのは、トレーニング前のカフェインを「毎回の儀式」にせず、高重量を扱う脚や背中の日、疲労が残っている日に絞ることです。週4回のトレーニングなら、使うのは1〜2回。それ以外の日は水かデカフェで始めます。

1〜2週間かけて量を減らしてみる

1日に4杯、5杯と飲んでいる方は、1〜2週間かけて減らしてみてください。急にゼロにすると、頭痛やだるさ、強い眠気が数日続くことがあります。3〜4日ごとに1杯ずつ減らす、午後の分からデカフェに置き換える、という進め方なら無理がありません。減らしたあとに飲む1杯は、驚くほどよく効きます。

現場で見てきたNG例 ― カフェインで損をする6つのパターン

  • 夜のジムの前にエナジードリンク。その日のセットは粘れても、睡眠が浅くなれば翌日以降の回復で損をする
  • 睡眠不足をカフェインで押し切る。疲労は消えていない。寝不足の日は重量を落とすか、休む判断を
  • コーヒーとプレワークアウトの重ね飲み。合計量を把握していない。表示を見て足し算する
  • 空腹でブラックコーヒーだけを飲んで朝トレ。胃が荒れる方、力が出ない方は、バナナ1本を足す
  • 水分をコーヒーだけで済ませる。カフェイン飲料も水分には数えられるが、トレーニング中の水は別に用意する
  • 甘いカフェイン飲料を何本も飲む。加糖の缶コーヒーやエナジードリンクは糖質のとりすぎにもつながる。減量中は無糖を選ぶ

私自身の使い方

私はいま、11月12日のNatural Olympiaに向けて減量の最終段階にいます。食事量が減る時期は集中力が落ちやすく、カフェインに手が伸びやすい時期でもあります。だからこそ、コーヒーは疲れが残っている日の日中のトレーニング前に限り、14時以降は摂らないと決めています。減量期にいちばん守りたいのは睡眠だからです。眠りが崩れると、食欲もトレーニングの重量も一気に乱れます。

よくある質問

Q. 筋トレ前のカフェインは何分前に、どのくらい摂ればいいですか?

目安はトレーニング開始の30〜60分前に、体重1kgあたり1.5〜3mgです。体重60kgなら90〜180mg、コーヒーにして1〜2杯にあたります。初めての方はコーヒー1杯(約100mg)から始め、集中力やきつさの感じ方、夜の寝つきを確かめながら調整してください。1回に摂る量は200mgまで、1日の合計は400mgまでを上限にし、動悸や胃の不快感が出たら量を減らします。

Q. カフェインは1日に何mgまで摂っていいですか?

日本では1日の許容摂取量は設定されていませんが、カナダ保健省などは健康な成人で1日400mgまでを目安として示しています。コーヒーならマグカップ約3杯です。妊娠中の方は1日200〜300mgまでとされています。ただし感受性には大きな個人差があるため、動悸、手の震え、不安感、寝つきの悪さが出る場合は、目安以下でも自分には多いと考えて減らしてください。持病のある方や薬を服用中の方は主治医に相談しましょう。

Q. 夜に筋トレをする場合、カフェインを摂っても大丈夫ですか?

おすすめしません。カフェインの血中濃度が半分になるまでには4〜6時間ほどかかると言われ、19時に摂った分は日付が変わるころにも半分近く残っている計算になります。寝つきが悪くなったり眠りが浅くなったりすると、回復が遅れて逆効果です。夜にトレーニングする方は、16〜17時の軽食、昼の15〜20分の仮眠、丁寧なウォームアップで代用し、カフェインは就寝の8時間前まで、遅くとも14時までにしてください。

まとめ ― カフェインは「ここぞの日」に、睡眠を削らない範囲で

  • カフェインは疲れの感じ方を変える道具。筋肉を増やすのはトレーニング・食事・睡眠
  • 量の目安は1日400mgまで、1回200mgまで。コーヒー1杯は約100mgで計算する
  • 筋トレ前は開始30〜60分前に、体重1kgあたり1.5〜3mg。まずコーヒー1杯から試す
  • 締め切りは就寝の8時間前、遅くとも14時。夜のトレーニングでは使わない
  • 毎回は使わず、きつい日に絞る。効かなくなったら増やさずに、1〜2週間かけて減らす

行動の一歩として、今日1日に摂ったカフェインを、時刻と量で書き出してみてください。合計が何mgで、最後の1杯が何時だったか。それが分かれば、減らすべき1杯が見えてきます。秋の夜長にぐっすり眠った翌朝の一杯が、いちばんよく効きます。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。持病やケガのある方は、医師や専門家に相談のうえでトレーニングを行ってください。
井坂貴大
井坂 貴大(いさか たかひろ) INBA/PNBA 日本国内初プロカード。日本人初・2年連続で世界大会「Natural Olympia」出場。Tokyo Nanobody Lab(六本木)/プロフィットジム(つくば)オーナー。プロフィール詳細 →
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