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我慢しないダイエット ― フレキシブルダイエット入門

「ラーメンは禁止、甘いものも禁止、お酒も禁止」。そうやって始めた減量が2週間ほどで崩れ、反動で食べすぎて、以前より体重が増えてしまった。セッションで食事の相談を受けていると、この経験を持つ方が本当に多いです。しかも本人は「意志が弱い」と結論づけて、次はもっと厳しいルールで挑もうとします。私は、その方向に進むほど減量は難しくなると考えています。

私が指導で勧めているのは、「食べてはいけないもの」を決めない減量法、フレキシブルダイエットです。海外では IIFYM(If It Fits Your Macros=枠に収まるなら何を食べてもいい)とも呼ばれ、決めるのは食べ物の種類ではなく、1日のカロリーと三大栄養素の「枠」だけ。年間1,500本のセッションで多くの方の食事を見てきた実感として、長く結果を出す方はほぼ例外なく、この「枠で管理する」考え方を持っています。

この記事では、フレキシブルダイエットの考え方、我慢する食事が失敗しやすい理由、目標カロリーとPFCの決め方、好きなものを枠に収める技術、9月下旬からの「食欲の秋」との付き合い方、向いている人と向いていない人までをまとめます。

レタス・トマト・アボカド・ひよこ豆・さつまいもを彩りよく盛り付けたサラダボウル

フレキシブルダイエットとは ― 「食べていいもの」を決めない減量法

フレキシブルダイエットで決めるのは、1日の総カロリーと、たんぱく質(P)・脂質(F)・炭水化物(C)の量の枠だけ。その枠に収まる限り、どの食品から摂るかは自由、という考え方です。

IIFYM ― 「枠に収まるなら何でもいい」の本当の意味

IIFYM は「ジャンクフードだけで痩せる方法」のように誤解されることがありますが、本来の意味は違います。減量の結果を決めるのは、鶏むね肉とブロッコリーを食べたかどうかではなく、1日の摂取カロリーが消費より少なく、たんぱく質が十分に確保されているかという2点です。この2点が満たされていれば、残りの枠を何で埋めても結果は大きくは変わらない。それが IIFYM の主張です。ただし「好きなだけ食べていい」方法ではなく、自由の代わりに記録して数字を見る責任を引き受ける方法です。

「クリーンな食事」との違い

対になるのが「クリーンイーティング」で、食品を「良い食べ物」と「悪い食べ物」に分け、悪いものを排除する方法です。数週間なら結果も出ますが、線引きに終わりがなく、禁止リストが増え続けます。白米が悪い、果物が悪い、乳製品が悪い。気づけば食べられるものがなくなり、外食も会食もできなくなって破綻します。

我慢する食事が失敗する理由 ― 現場で見てきた反動のパターン

「禁止する減量」が崩れるパターンは、現場で見る限りほとんど次の3つです。

禁止が増えるほど、欲求は強くなる

「食べてはいけない」と決めた瞬間から、その食べ物のことを考える時間が増えます。普段はそれほど好きでもなかったのに、禁止した途端にコンビニのスイーツ棚が目に入るようになる。これは意志の問題ではなく、人の注意の向き方としてごく自然なことです。

「一口食べたら台無し」思考

禁止ルールで進めていると、ルールを破った瞬間に「今日はもう終わり」という気持ちになりやすい。チョコレート1粒なら50kcal程度なのに、「どうせ失敗したから」と夕食で1,500kcal食べてしまう。この「全か無か」の思考が、減量を止める最大の原因です。枠で管理していれば、チョコレート1粒はただの「50kcalの消費」で、残りの枠を少し減らせば済みます。

完璧主義が減量を止める

減量で本当に必要なのは、100点の日を作ることではなく、60点の日を続けることです。週に1日崩れても残りの6日が整っていれば、月単位の収支はマイナスになります。私は減量期に「1日単位」ではなく「1週間単位」で収支を見るように伝えていて、これだけで続く方がはっきり増えました。

始め方3ステップ ― 目標カロリーとPFCの枠を決める

必要なのは、体重計と食事記録アプリ、そして最初の2〜4週間だけ記録を続ける根気です。

ステップ1:目標カロリーを決める

まず、いまの体重を維持するカロリー(メンテナンスカロリー)の見当をつけます。よく使われる目安は体重(kg)×30〜35kcalで、デスクワーク中心なら30、週3回以上トレーニングする方なら35寄りです。そこから1日300〜500kcal引いたものを減量の目標カロリーにします。体脂肪1kgはおよそ7,200kcalに相当するとされるので、1日400kcalの赤字なら、単純計算で月に1.5kg前後のペースです。これより大きな赤字は筋肉が落ちやすく、反動も大きくなります。

ステップ2:たんぱく質→脂質→炭水化物の順に枠を決める

枠は、たんぱく質から順に決めます。私が使っている目安は次のとおりです。

  1. たんぱく質:体重1kgあたり1.6〜2.0g。減量中は上限寄りで(たんぱく質は1日どれくらい必要かの記事を参照)
  2. 脂質:総カロリーの20〜25%。減らしすぎると体調面で続きにくい
  3. 炭水化物:残りすべて

たんぱく質と炭水化物は1gあたり約4kcal、脂質は1gあたり約9kcalとして計算します。体重70kgのデスクワーカーで計算した例が次の表です。

項目計算1日の枠
メンテナンスカロリー70kg × 30kcal約2,100kcal
目標カロリー2,100 − 400約1,700kcal
たんぱく質(P)70kg × 2.0g140g(560kcal)
脂質(F)1,700 × 25% ÷ 9約47g(425kcal)
炭水化物(C)(1,700 − 560 − 425)÷ 4約179g(715kcal)

この配分はたんぱく質が総カロリーの約33%、脂質25%、炭水化物42%です。厚生労働省の日本人の食事摂取基準が一般向けに示す範囲よりたんぱく質が多めですが、筋肉を守りながら減量する目的では広く用いられている量です。PFCの考え方は減量中でも筋肉を落とさない食事の組み立て方にまとめています。

ステップ3:2週間記録して、体重の動きで調整する

枠を決めたら、2週間はその枠で食べて、毎朝同じ条件(起床後・トイレのあと・食事の前)で体重を測ります。減量ペースの目安は週に体重の0.5〜1%です。2週間で変化がなければ総カロリーを100〜150kcal減らし、速すぎるなら炭水化物を20〜30g足す。最初の数字が当たっている必要はなく、直せることが大事です。

好きなものを枠に収める技術 ― 80/20ルールと置き換え

枠が決まれば、あとは「その中でどう好きなものを食べるか」です。

80/20ルール ― 8割は基本の食材、2割は自由に

1日の枠のうち、8割を肉・魚・卵・ごはん・野菜・果物のような基本の食材で埋め、残りの2割を好きなものに使う、という比率です。1,700kcalなら、自由枠はおよそ340kcal。板チョコ半分、コンビニのシュークリーム1個、缶ビール2本くらいの量です。8割を基本の食材にする理由は、そのほうが満腹感が保ちやすく、ビタミンや食物繊維も自然に確保でき、結果として枠を守るのが楽になるからです。

「収める」実例 ― 何をどう調整するか

好きなものを食べる日は、その分をどこかで引きます。数値は一般的な概算なので、実際は商品の表示を確認してください。

食べたいものおおよその中身その日の調整の例
ラーメン1杯約600〜800kcal、脂質20〜30g、炭水化物70〜90g夕食はごはんを抜いて鶏むね肉と野菜にし、脂質を控える
コンビニスイーツ1個約200〜350kcal、脂質10〜20g他の食事の脂質を落とす(揚げ物→焼き物、ドレッシング→ポン酢)
缶ビール350ml×2本約280kcal、炭水化物約20gごはんを1食分減らす。おつまみは枝豆・刺身・焼き鳥(塩)
焼肉の食べ放題1,500kcal以上になりやすい前後2日を控えめにして週単位で収支を合わせる

調整は「炭水化物と脂質」で、たんぱく質は削らない

枠に収めるとき、削るのは炭水化物と脂質です。たんぱく質を削ると筋肉が落ちやすくなるうえ、空腹感も強くなって翌日に崩れます。「今日はスイーツを食べたから、夕食は鶏むね肉とサラダだけにする」は正解ですが、「夕食を抜く」は不正解です。野菜や果物は自由枠に数えず、基本の8割に入れてください。

9月下旬からの「食欲の秋」とどう付き合うか

この記事が公開される9月下旬は、朝晩が涼しくなり、暑さで落ちていた食欲が戻ってくる時期です。新米、さつまいも、栗、梨やぶどう。連休や行楽の予定も増え、10月以降は会食が続きます。「禁止する減量」にはいちばん厳しい季節ですが、フレキシブルダイエットなら、むしろ楽しめる季節です。

新米・さつまいも・栗は「炭水化物の枠」で食べる

秋の味覚の多くは炭水化物です。だから避けるのではなく、炭水化物の枠の中に入れて食べます。新米を楽しみたい日は、その日のパンや麺を減らしてごはんに回す。さつまいもは100gで約130kcal、炭水化物約30gが目安なので、ごはん100g分と入れ替える感覚で扱えます。甘栗の小袋をおやつにするなら、その分を夕食のごはんから引けば済みます。

連休・行楽・飲み会は「週単位」で収める

連休に外食が続く場合は、1日で収めようとせず、前後の平日を少し控えめにして週単位で収支を合わせます。飲み会の日は、たんぱく質だけは先に確保し、揚げ物と締めの炭水化物を控えめにする。外食での選び方は外食が多くても痩せられる記事にまとめています。

私自身の秋の過ごし方

私自身も、大会に向けた減量期は体重を82kgから70kg前後まで落としますが、その間も「食べてはいけないもの」は決めていません。甘いものが食べたい日は炭水化物の枠の中で食べます。「禁止」ではなく「量」で管理しているから、反動が起きにくいのだと感じています。

向いている人・向いていない人と、現場で見たNG例

向いている人

  • 外食や会食が多く、「禁止する減量」が現実的でない方
  • 過去に厳しい食事制限で反動を経験した方
  • 数字を見て調整するのが苦にならない方

向いていない、または注意が必要な人

  • 記録がどうしても続かない方。まずはたんぱく質の量だけを守る「1項目管理」から
  • 1kcal単位で自分を責めてしまう方。枠は「±100kcal」程度の幅で捉えてください
  • 過去に摂食の問題を抱えたことがある方。記録が不安を強めることがあるので、医師や専門家に相談のうえで進めてください

現場で見てきたNG例

  • 自由枠を全部お菓子で埋め、8割の基本を守らなかった ― 枠には収まっているのに空腹で夜中に崩れた
  • たんぱく質の枠を削って好きなものを入れた ― 体重は落ちたが、扱える重量も落ちて見た目が変わらなかった
  • 記録を「だいたい」で済ませた ― 調味料、ドレッシング、飲み物を書いていなかった。この3つで1日300kcal近く差が出る

よくある質問

Q. フレキシブルダイエットなら何を食べても痩せますか?

痩せるかどうかを決めるのは食べ物の種類ではなく、目標カロリーとPFCの枠に収まっているかどうかです。枠に収まっていれば、ラーメンやスイーツを食べた日でも減量は進みます。ただし、枠を守るためには記録が欠かせませんし、加工食品ばかりでは満腹感や体調の面で続けにくくなります。私は、食事の8割を肉・魚・卵・ごはん・野菜のような基本の食材にして、残りの2割で好きなものを枠に収める、という比率を勧めています。

Q. フレキシブルダイエットで毎日カロリー計算をしないといけませんか?

最初の2〜4週間は、アプリで毎食記録することを強く勧めます。自分がよく食べるものの数字が頭に入るまでは、感覚と実際の差がとても大きいからです。よく食べるものの量が分かってくると、「この定食なら約700kcal」「ごはん150gなら約250kcal」と見当がつくようになり、毎回の入力は不要になります。慣れたあとは、体重の変化が止まったときや外食が続いた週だけ記録に戻す、という使い方で十分です。

Q. フレキシブルダイエットは筋肉を落とさずに減量できますか?

たんぱく質の枠を体重1kgあたり1.6〜2.0gに設定し、週2〜3回の筋トレを続けていれば、筋肉を大きく落とさずに減量することは十分可能です。フレキシブルダイエットは「好きなものを食べる方法」と思われがちですが、本質は「たんぱく質と総カロリーを先に確保して、残りを自由にする方法」です。減量のペースは週に体重の0.5〜1%程度を目安にして、それより速く落ちているなら枠を少し増やしてください。

まとめ ― 禁止ではなく「枠」で管理する

  • フレキシブルダイエット(IIFYM)は、食べ物の種類ではなく1日のカロリーとPFCの枠で管理する減量法
  • 禁止する減量が崩れるのは意志の弱さではなく、禁止が欲求を強め「一口食べたら台無し」思考を生むから。収支は1週間で見る
  • 始め方は体重×30〜35kcalから300〜500kcal引いた目標カロリー→たんぱく質(体重×1.6〜2.0g)→脂質(20〜25%)→残りを炭水化物
  • 2週間記録して、週に体重の0.5〜1%のペースになるよう100〜150kcal単位で調整する
  • 80/20ルール。8割は基本の食材、2割は自由枠。調整は炭水化物と脂質で行い、たんぱく質は削らない
  • 食欲の秋は、新米・さつまいも・栗を炭水化物の枠で楽しみ、連休や飲み会は週単位で収める

今日からできる一歩は、食事記録アプリを1つ入れて、明日の3食を「正直に」記録することです。数字を直すのはまだ先でいい。禁止リストの代わりに枠を知ることが、我慢しない減量の始まりです。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。持病やケガのある方は、医師や専門家に相談のうえでトレーニングを行ってください。
井坂貴大
井坂 貴大(いさか たかひろ) INBA/PNBA 日本国内初プロカード。日本人初・2年連続で世界大会「Natural Olympia」出場。Tokyo Nanobody Lab(六本木)/プロフィットジム(つくば)オーナー。プロフィール詳細 →
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