基礎代謝を上げるには ― 数字で分かる痩せやすい身体の作り方
「基礎代謝を上げれば、寝ていても痩せますよね」「年齢で代謝が落ちたから太ったんです」。初回のセッションで、この2つは本当によく耳にします。体組成計に出る「基礎代謝」の数字を毎朝確認して、10kcalの増減に一喜一憂している方も少なくありません。
基礎代謝は1日の消費カロリーの約6割を占める、いちばん大きな項目です。大切なのは間違いありません。ただ、数字で見ていくと、多くの方が期待している景色とは少し違うものが見えてきます。たとえば筋肉を1kg増やして上がる基礎代謝は、1日あたり約13kcalといわれています。それでも私は、痩せやすい身体をつくる近道は筋トレだと考えています。その理由も、数字で説明できます。
この記事では、基礎代謝とは何か、自分の基礎代謝の計算方法、筋肉を増やすと実際にどれだけ変わるのか、年齢で落ちるのは本当か、基礎代謝を下げてしまうNG習慣、そして痩せやすい身体をつくる具体的な実践までをまとめます。10月に入って朝晩が冷え込み、食欲も増してくる季節です。「代謝」という言葉に振り回されないために、一度数字で整理しておきましょう。

基礎代謝とは ― 1日の消費カロリーの約6割を占める土台
基礎代謝とは、何もせずじっとしていても、呼吸・心臓の拍動・体温の維持といった生命活動のために使われる最低限のエネルギーのことです。1日の消費カロリーは、大きく3つに分けられます。
| 項目 | 割合の目安 | 1日2,400kcal消費する人の場合 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 基礎代謝 | 約60% | 約1,440kcal | 生命維持のために使われる |
| 食事誘発性熱産生 | 約10% | 約240kcal | 食べたものの消化・吸収に使われる |
| 身体活動 | 約30% | 約720kcal | 運動と、通勤・家事など日常の動き |
割合がいちばん大きいので、「ここを上げれば楽に痩せる」と考えたくなるのは自然なことです。ただし、基礎代謝は3つの中でもっとも自分の意思で動かしにくい項目でもあります。
基礎代謝を決めているのは「身体の大きさ」と「中身」
基礎代謝の大きさは、主に体重、とくに脂肪を除いた部分(筋肉・内臓・骨など)の量で決まります。身体が大きい人ほど高く、同じ体重なら筋肉が多い人ほど高くなります。性別や年齢による差も、その多くは身体の大きさと中身の違いで説明できると考えられています。
自分の基礎代謝を数字で知る ― 年代別の計算方法
基礎代謝のおおよその値は、体重に「基礎代謝基準値」を掛けると求められます。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」で示されている基準値は次のとおりです。
| 年齢 | 男性(kcal/kg/日) | 女性(kcal/kg/日) | 男性70kgの例 | 女性55kgの例 |
|---|---|---|---|---|
| 18〜29歳 | 23.7 | 22.1 | 約1,660kcal | 約1,220kcal |
| 30〜49歳 | 22.5 | 21.9 | 約1,580kcal | 約1,200kcal |
| 50〜64歳 | 21.8 | 20.7 | 約1,530kcal | 約1,140kcal |
| 65〜74歳 | 21.6 | 20.7 | 約1,510kcal | 約1,140kcal |
40歳・体重70kgの男性なら、70×22.5=約1,580kcalです。この基準値は標準的な体格を前提にしているので、体脂肪が多い方では実際より高めに、筋肉が多い方では低めに出やすい点に注意してください。
1日の消費カロリーに直す
基礎代謝に「身体活動レベル」を掛けると、1日の消費カロリーの目安になります。食事摂取基準では、座り仕事が中心の「低い」が1.50、立ち仕事や通勤・家事である程度動く「ふつう」が1.75、活発に動く「高い」が2.00とされています。
- 基礎代謝1,580kcal×1.50(低い)=約2,360kcal
- 基礎代謝1,580kcal×1.75(ふつう)=約2,760kcal
同じ基礎代謝でも、動き方が1段階変わるだけで1日約400kcalの差がつきます。この数字は、あとの話の伏線になるので覚えておいてください。
体組成計の数字は「推定値」
家庭用の体組成計が表示する基礎代謝は、体重や体脂肪率などから計算した推定値です。体内の水分量で体脂肪率の表示が変わるため、前日の食事や入浴、測る時間帯によって数字は動きます。1日ごとの上下に意味はありません。毎朝同じ条件で測り、月単位の傾向を見る。使い方はそれで十分です。
筋肉を増やすと基礎代謝はどれだけ上がるのか
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。基礎代謝を身体のどこが使っているのかを見てみます。
| 臓器・組織 | 基礎代謝に占める割合の目安 |
|---|---|
| 骨格筋(筋肉) | 約22% |
| 肝臓 | 約21% |
| 脳 | 約20% |
| 心臓 | 約9% |
| 腎臓 | 約8% |
| 脂肪組織 | 約4% |
| その他 | 約16% |
筋肉は全体の2割強で、肝臓や脳とほぼ同じです。筋肉は量が多いので合計は大きいのですが、重さあたりで見ると、内臓のほうがはるかに多くのエネルギーを使っています。筋肉1kgが安静時に使うエネルギーは1日あたり約13kcal、脂肪は1kgあたり約4.5kcalといわれています。
初心者の方が半年から1年、真面目にトレーニングを続けて筋肉が2kg増えたとします。基礎代謝の増加は約26kcal。ごはんでいえば一口分です。「筋肉をつければ寝ていても痩せる」という言葉は、方向としては間違っていませんが、量としてはかなり控えめな話だということが分かります。
それでも私が筋トレを勧める3つの理由
- トレーニングそのものがエネルギーを使う ― 1時間の筋トレで使うエネルギーは数百kcal程度です。週3回なら、1日あたりに均しても筋肉2kg分の基礎代謝を大きく上回ります
- 動ける身体は、日常の活動量が増える ― 階段がつらくない、歩くのが苦にならない。先ほどの計算で見たとおり、身体活動レベルが1段階変われば1日約400kcalの差です。筋肉の価値は、じっとしているときより動いているときに出ます
- 減量中に基礎代謝が落ちるのを防ぐ ― 食事だけで体重を落とすと筋肉も一緒に減り、基礎代謝が下がります。筋トレは「上げる」より「下げない」ための手段として効きます
日常の動きで消費を増やす方法はNEATの増やし方で詳しく書いています。
「年齢で基礎代謝が落ちた」は本当か
先ほどの基準値で、体重70kgの男性の20代と50代を比べてみます。20代は約1,660kcal、50代は約1,530kcal。差は1日あたり約130kcalで、ごはん茶碗に半分ほどです。30年かけてこの差ですから、「40代になって急に代謝が落ちた」と感じるほどの変化を、基礎代謝だけで説明するのは難しいことが分かります。
年齢とともに基礎代謝が下がる主な理由は、筋肉をはじめとする脂肪以外の組織が減ることだと考えられています。近年の大規模な研究では、体格の違いをそろえて比べると、20代から60歳頃までの代謝はほぼ横ばいだったという報告もあります。
では、なぜ30代・40代で太りやすくなるのか。私が現場で見ている限り、原因は年齢そのものより生活の変化です。デスクワークが増える、車移動が増える、部活や通学で動いていた時間がなくなる。食事量は20代のままで、動く量だけが減っている。これは基礎代謝の問題ではなく、身体活動の問題です。裏を返せば、年齢を理由に諦める必要はないということです。
基礎代謝を下げてしまうNG習慣
基礎代謝は上げにくい一方で、下げるのは簡単です。現場でよく見るNG例を挙げます。
- 極端な食事制限 ― 基礎代謝を下回るような食事を続けると、筋肉が減りやすく、身体が消費を抑える方向に適応することが知られています。体重が減った分以上に消費が落ち、停滞とリバウンドの原因になります
- たんぱく質の不足 ― サラダと春雨スープだけ、のような食事では筋肉の材料が足りません。体重は落ちても、落ちているのは筋肉かもしれません
- 筋トレなしで有酸素運動と食事制限だけ ― 筋肉に「必要だ」という刺激が入らないため、減量中に筋肉が落ちやすくなります
- 睡眠不足 ― 食欲のコントロールが乱れ、日中の活動量も落ちます。詳しくは睡眠不足で太る理由をご覧ください
- 短期間の急激な減量を繰り返す ― 落とすたびに筋肉が減り、戻るときは脂肪で戻る。繰り返すほど痩せにくい身体になります
減量のペースは、1週間に体重の0.5〜1%までを目安にしてください。体重70kgなら週に350〜700gです。ゆっくりに感じるかもしれませんが、これが筋肉と基礎代謝を守れる速度です。
痩せやすい身体をつくる5つの実践
「基礎代謝を上げる」を「1日の消費カロリーを高く保てる身体をつくる」と読み替えると、やるべきことがはっきりします。それぞれの取り組みで、1日あたりの消費がどのくらい変わるのかを目安で並べます。
| 取り組み | 1日あたりの消費の変化(目安) | ひとこと |
|---|---|---|
| 筋肉を2kg増やす | +約26kcal(基礎代謝) | 時間がかかるが、減りにくい資産になる |
| 筋トレを週3回・各1時間 | 1日平均で+100kcal前後 | 筋肉を守り、増やす刺激にもなる |
| 歩数を1日2,000歩増やす | +50〜100kcal | 今日から始められる |
| 座り中心の生活から、よく動く生活へ | +数百kcal | いちばん差がつく |
1. 週2〜3回、大きな筋肉を鍛える
脚・背中・胸といった大きな筋肉を使う種目を中心に、週2〜3回。目的は基礎代謝を劇的に上げることではなく、筋肉を増やし、減量中も守ることです。
2. たんぱく質を毎食確保する
食事誘発性熱産生は栄養素によって異なり、たんぱく質は摂取したエネルギーの約30%、糖質は約6%、脂質は約4%が消化・吸収の過程で使われるといわれています。たんぱく質は筋肉の材料であると同時に、食べること自体で消費が増えやすい栄養素です。筋肉をつけたい方は体重1kgあたり1.6〜2.2gが目安です。量の考え方はたんぱく質は1日どれくらい必要?にまとめています。
3. 日常の動きを増やす
表のとおり、いちばん差がつくのはここです。一駅分歩く、階段を使う、1時間に一度は立つ。筋トレで動ける身体をつくり、その身体で日常をよく動く。この2つがそろって初めて「痩せやすい身体」になります。
4. 7時間前後の睡眠を確保する
睡眠は筋肉の回復の時間であり、翌日の活動量を左右します。
5. 食べる量を減らしすぎない
減量中でも、摂取カロリーは基礎代謝を下回らないことを基本にしてください。1日の消費カロリーから300〜500kcalほど引いた量が、筋肉を守りながら落とせる現実的な目安です。
私自身、11月のNatural Olympiaに向けた減量の終盤にいますが、基礎代謝を上げるための特別なことは何もしていません。トレーニングの重量をできるだけ落とさない、たんぱく質を毎食確保する、歩数を保つ、眠る。競技を9年続けてきて、結局この4つに行き着きました。
よくある質問
Q. 筋肉を1kg増やすと基礎代謝はどれくらい上がりますか?
筋肉1kgが安静時に使うエネルギーは1日あたり約13kcalといわれています。2kg増やしても約26kcalで、基礎代謝だけを見れば大きな数字ではありません。ただし、筋肉が増える過程ではトレーニングそのものでエネルギーを使い、動きやすい身体になることで日常の活動量も増えやすくなります。基礎代謝の数字だけでなく、1日の消費カロリー全体で考えることをおすすめします。
Q. 基礎代謝を上げる食べ物や飲み物はありますか?
食べるだけ、飲むだけで基礎代謝がはっきり上がる食品はありません。唐辛子などの辛いものやカフェインは消費エネルギーを一時的に高めるといわれていますが、その量はごくわずかです。食事で意識する価値があるのはたんぱく質で、消化・吸収に使われるエネルギーが糖質や脂質より多く、筋肉の材料にもなります。特定の食品を探すより、毎食たんぱく質を確保することを優先してください。
Q. 基礎代謝より少ないカロリーで食事制限をしても大丈夫ですか?
おすすめしません。基礎代謝は生命を維持するための最低限のエネルギーなので、それを下回る食事を続けると、筋肉が減りやすく、身体が消費を抑える方向に適応して痩せにくくなることが知られています。減量中でも摂取カロリーは基礎代謝を下回らない範囲にとどめ、1日の消費カロリーから300〜500kcalほど引いた量を目安にすると、筋肉を守りながら進めやすくなります。
まとめ ― 「上げる」より「下げない」、そして「動く」
- 基礎代謝は1日の消費カロリーの約6割。体重×基礎代謝基準値でおおよその値が分かる
- 筋肉1kgで増える基礎代謝は1日約13kcal。筋トレの価値は、基礎代謝の数字より「動ける身体」と「減量中に筋肉を守ること」にある
- 年齢による基礎代謝の低下は、20代と50代で1日約130kcal程度。太りやすくなる主な原因は、動く量が減ること
- 極端な食事制限・たんぱく質不足・筋トレなしの減量は、基礎代謝を下げる
- 筋トレ週2〜3回、毎食のたんぱく質、日常の動き、睡眠、食べすぎず減らしすぎない食事。この5つで消費カロリーを高く保つ
今日の一歩は、自分の体重に基準値を掛けて、基礎代謝と1日の消費カロリーを一度計算してみることです。数字が分かれば、「代謝が悪いから痩せない」という漠然とした不安は、「あと何kcal動くか、何kcal整えるか」という具体的な課題に変わります。朝晩が冷え込み、身体を動かしやすくなるこれからの季節。体組成計の数字を眺める時間を、10分歩く時間に変えてみてください。
