日常生活

NEATの増やし方 ― 運動不足を日常の消費カロリーで解消する

「週に2回ジムに通っているのに、体重がまったく落ちません」「デスクワークで1日座りっぱなしです。運動する時間が取れなくて」。年間1,500本のセッションで、この2つの相談は本当によく受けます。実はこの2つは、根っこが同じです。ジムでの1時間は頑張っているのに、残りの23時間でほとんど身体を動かしていない。ここに、運動不足と消費カロリーの問題の核心があります。

鍵になるのが、NEAT(ニート)という考え方です。Non-Exercise Activity Thermogenesis、日本語では「非運動性活動熱産生」と訳されます。トレーニングやスポーツ以外の、通勤・家事・階段・立ち話といった日常の動きで消費されるエネルギーのことです。身体づくりの世界では、運動そのものよりこのNEATの差が身体を分けるといわれるほど、大きな要素です。

この記事では、1日の消費カロリーの内訳からNEATの位置づけを整理し、運動しているのに痩せない理由、場面別にNEATを増やす具体策、厚生労働省のガイドに基づく歩数の目安、私が指導で使っている1週間の組み込み方、現場で見てきたNG例までをまとめます。9月も今日で終わり、日中の暑さが落ち着いて外を歩くのが心地よい季節に入りました。ジムに行く時間がない方こそ、ここから始めてください。

白い石壁の建物の前で、黒いTシャツにジーンズ姿の人がノートを手に屋外の石段を上っている

NEATとは何か ― 1日の消費カロリーの内訳で見る

まず、私たちが1日に使うエネルギーは、大きく3つに分かれます。

内訳割合の目安内容
基礎代謝約60%何もしなくても生命維持のために使われる
食事誘発性熱産生約10%食べたものを消化・吸収するときに使われる
身体活動約30%運動(トレーニング・スポーツ)+NEAT(日常の動き)

身体活動の約30%のうち、週2〜3回のトレーニングが占めるのはごく一部です。多くの方にとって、身体活動の大半はNEATです。座って仕事をするか立って仕事をするか、エレベーターか階段か、車か徒歩か。こうした選択の積み重ねが、NEATとして1日数百kcalの差になるといわれています。

同じ体格でも「動く人」と「動かない人」で数百kcal違う

体重や筋肉量が同じでも、日常の動き方だけで1日の消費カロリーは大きく変わります。座り仕事の人と、立ち仕事や外回りの人では、運動をまったくしなくても1日数百kcalの差が生まれるといわれています。数百kcalというと小さく聞こえるかもしれませんが、1ヶ月に換算すると、脂肪1kg分(およそ7,200kcal)に相当する差が出る計算です。ジムでの1時間の運動で使うエネルギーも数百kcal程度ですから、NEATがどれほど大きいかが分かると思います。

NEATが減り続けている現代の生活

在宅勤務、通販、エレベーター、自動車。便利になるほど、意識しなければNEATは減ります。「運動不足」と聞くと運動をしていないことだと考えがちですが、私は、運動の有無より先に日常の動きが減っていることが問題の本体だと考えています。運動を始める前に、まず減った分の日常の動きを取り戻す。順番はこちらが先です。

運動しているのに痩せない理由 ― ジムの1時間より残りの23時間

週3回、1時間ずつジムに通っている方の運動時間は、週に3時間です。1週間は168時間ですから、割合にして2%に満たない。残りの98%で座り続けていれば、消費カロリーの合計は思ったほど増えません。

もう1つ、指導現場でよく見るのが「運動した日ほど動かなくなる」現象です。朝にトレーニングをした満足感で、その日は駅でエスカレーターに乗り、昼休みも席から動かず、帰宅後はソファで過ごす。運動した分のカロリーを、無意識にNEATの減少で相殺してしまう。これでは、体重が動かないのも当然です。

逆に言えば、ここが伸びしろです。トレーニングの内容を変えなくても、残りの23時間の動き方を変えるだけで、身体は変わり始めます。座りっぱなしがもたらす健康面のリスクについては、座りっぱなしのリスクと対策の記事で詳しく書きましたので、あわせてお読みください。

NEATを増やす具体策 ― 場面別の「動く選択」

NEATを増やすコツは、新しい時間をつくることではなく、すでにある行動を「動く側」に置き換えることです。私が指導で提案している置き換えを、場面ごとに整理します。

場面動かない選択動く選択目安
通勤最寄り駅までバス・自転車1駅手前で降りて歩く。自宅から駅まで歩く片道10〜15分・約1,000〜1,500歩
駅・オフィスエスカレーター・エレベーター階段(3階までは必ず階段)1日10階分で約200段
仕事中座ったまま電話・チャット立って電話する。用件は席まで歩いて伝える30分に1回は立つ
昼休みデスクで食べる少し遠い店まで歩く。食後に10分歩く往復1,000歩
自宅ソファで動画を観る立って観る。区切りごとにスクワット10回1日5分
家事週末にまとめてやる掃除機・洗濯・買い物を平日に分散する家事は歩行と同程度の強度
休日車で買い物に行く徒歩や自転車で買い物。家族と散歩する8,000歩を目指す

数字で見る日常活動の強さ

身体活動の強さは「メッツ」で表します。安静に座っている状態を1メッツとして、その何倍のエネルギーを使うかを示す数値です。消費カロリーの目安は、「メッツ × 体重(kg) × 時間(h) × 1.05」で計算できます。

  • 普通の速さの歩行(約3.5メッツ):体重70kgの方が30分歩くと約130kcal
  • 家の掃除・片付け(約3メッツ):30分で約110kcal
  • 座って仕事(約1.5メッツ):30分で約55kcal

普通に歩くだけでも、座っているときの2倍以上のエネルギーを使う計算になります。1つひとつは小さくても、1日の中で「座っている30分」を「歩いている30分」に何回置き換えられるかが、NEATの勝負どころです。

階段は「無料のジム」

階段の上りは、日常の動きの中でも特に強度が高く、普通の歩行の2倍前後のエネルギーを使う動作です。お尻と太ももの筋肉を使うため、筋トレの補助にもなります。私は、指導している方に「3階までは必ず階段」というルールを勧めています。駅の階段、オフィスの階段、マンションの階段。1日に10階分(約200段)を上るだけで、週に1,000段を超えます。歩き方のコツと坂道・階段の使い方はウォーキングを「運動」に変える歩き方の記事も参考にしてください。

歩数の目安 ― まず「今より10分」から

NEATの指標としていちばん使いやすいのが歩数です。スマートフォンを持ち歩いていれば、ほとんどの機種で自動的に記録されています。新しく何かを買う必要はありません。

厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に対して1日60分以上(歩数にして約8,000歩以上)の身体活動が推奨されています。同時に、今の活動量にかかわらず「今より少しでも多く動く」ことも勧められています。今の歩数が8,000歩より少ない方は、まず「今より10分多く歩く」ことから。10分はおよそ1,000歩で、1駅分、あるいは昼休みの往復に相当します。

まず1週間、何も変えずに歩数を記録してください。平均が4,000歩以下なら座り仕事の典型で、伸びしろが最も大きい方です。私のセッションでも、この「現状把握」から始めます。

現状の1日平均歩数最初の目標置き換えの例
〜4,000歩+2,000歩(約20分)昼休みに10分歩く+駅では階段
4,000〜6,000歩+2,000歩1駅手前で降りる+帰宅後に10分歩く
6,000〜8,000歩8,000歩を安定させる休日の歩数を平日並みに保つ
8,000歩以上維持+筋トレ週2〜3回歩数より筋力の維持に重心を移す

歩数を目安にする理由は、記録が自動で取れて、増減が一目で分かるからです。トレーニングの重量と同じで、数字が見えると人は続けられます。

私が指導で使う組み込み方 ― NEATと筋トレの役割分担

NEATは「減量の土台」、筋トレは「身体を変える主役」

NEATを増やすだけで筋肉は増えません。筋肉をつけて身体の形を変えるのは、あくまで筋トレの役割です。一方で、消費カロリーの総量を底上げして体脂肪を落としやすくするのは、NEATのほうが得意です。私は、NEATは減量と健康の土台、筋トレは身体を変える主役、と役割を分けて考えています。

減量期には、トレーニングを増やすより先に歩数を増やしてもらいます。理由は、疲労が溜まりにくく、回復を妨げないからです。有酸素運動を週に何回も足すと筋トレの重量が落ちることがありますが、日常の歩行や階段では、その心配はほとんどありません。

1週間の組み込み例

デスクワークで、週2回ジムに通っている方の例です。

  • 月・木(ジムの日):トレーニング60分。帰りは1駅手前で降りて歩く
  • 火・金:昼休みに10分歩く+オフィスは階段。夕食後に家族と15分散歩
  • 水(在宅勤務):30分に1回立つ。昼に20分歩く
  • 土・日:買い物は徒歩か自転車。1日8,000歩を目指す

ここで大事なのは、NEATを「頑張る運動」にしないことです。特別な時間を確保するのではなく、通勤・昼休み・家事といった「どうせやること」の中で動く量を増やす。だからこそ疲れず、続きます。続けるための仕組みづくりは忙しい社会人がトレーニングを習慣にする5つのコツの記事にも書きました。

私自身のNEAT

私も総合商社に勤めていた頃は、デスクワーク中心で身体を動かすのはジムの時間だけ、という生活でした。今は指導の仕事で1日の大半を立って過ごしていますが、それでも移動はできるだけ歩き、セッション中もお客様と一緒に動くようにしています。増量期は歩数を増やしすぎないよう調整し、減量期は逆に歩数を増やす。NEATは、私にとって体重を調整するいちばん穏やかなツールです。

現場で見てきたNG例と、うまくいく人の共通点

NG例

  • 運動した日は「ご褒美」で動かなくなる → 運動分の消費がNEATの減少で相殺される
  • 最初から1日1万歩を目標にする → 3日で挫折する。まず今より2,000歩
  • 歩数を増やした分、食べる量も増える → 消費と摂取は別で管理する
  • 週末に3万歩歩いて平日は3,000歩 → 平均より「毎日の底上げ」が効く
  • スタンディングデスクを入れて安心する → 立つだけでは消費はわずか。歩くことが本体

うまくいく人の共通点

歩数を記録している。置き換えのルールを決めている(3階までは階段、1駅手前で降りる)。運動した日ほど意識して動く。この3つです。NEATは意志の問題ではなく、選択のルールの問題です。ルールが決まっていれば、疲れた日でも身体は勝手に階段を選びます。

よくある質問

Q. NEATとは何ですか?

NEATは「Non-Exercise Activity Thermogenesis(非運動性活動熱産生)」の略で、トレーニングやスポーツ以外の、通勤・家事・階段の上り下り・立ち仕事といった日常の動きで消費されるエネルギーのことです。1日の消費カロリーのうち身体活動が占める約30%の大半はNEATで、座り仕事の人と立ち仕事の人では、運動をしなくても1日数百kcalの差が生まれるといわれています。

Q. NEATを増やすだけで痩せますか?

食事の量が変わらなければ、NEATを増やした分だけ消費カロリーが上回るので、体脂肪は少しずつ減っていきます。ただし効果は緩やかで、1日2,000歩増やしても消費の増加は50〜100kcal程度が目安です。確実に落としたい場合は、食事の管理とセットで行ってください。また、NEATだけでは筋肉は増えないので、身体の形を変えたい方は週2〜3回の筋トレを組み合わせるのが近道です。

Q. スタンディングデスクや立ち仕事はNEATを増やす効果がありますか?

効果はありますが、期待するほど大きくはありません。立っているときの消費カロリーは、座っているときより1〜2割ほど多い程度といわれています。立つこと自体の価値は、消費カロリーよりも「座りっぱなしの時間を分断できる」点と「立っていると歩き出しやすい」点にあります。スタンディングデスクを入れたら、そこからさらに歩く回数を増やすことを意識してください。

まとめ ― 運動の前に、日常の「動く選択」を取り戻す

  • 1日の消費カロリーは基礎代謝約60%・食事誘発性熱産生約10%・身体活動約30%。身体活動の大半はNEAT
  • 週3時間のジムは1週間の2%。残りの98%の動き方が身体を分ける
  • NEATは新しい時間をつくらず、通勤・階段・昼休み・家事の「置き換え」で増やす
  • 「3階までは階段」「1駅手前で降りる」など、迷わないルールを決める
  • 歩数を記録し、まず今より2,000歩(約20分)。目標は1日8,000歩
  • NEATは減量と健康の土台、筋トレは身体を変える主役。役割を分けて両方やる
  • 運動した日ほど意識して動く。食べる量は別で管理する

今日できる一歩は、スマートフォンの歩数を開いて、この1週間の平均を確認することです。そして明日の朝、駅でエスカレーターの横にある階段を選んでください。9月が終わり、10月は1年でいちばん歩くのが気持ちのいい季節です。ジムに行けない日も、身体は変えられます。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。持病やケガのある方は、医師や専門家に相談のうえでトレーニングを行ってください。
井坂貴大
井坂 貴大(いさか たかひろ) INBA/PNBA 日本国内初プロカード。日本人初・2年連続で世界大会「Natural Olympia」出場。Tokyo Nanobody Lab(六本木)/プロフィットジム(つくば)オーナー。プロフィール詳細 →
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