筋トレに炭水化物は必要か ― 糖質制限の落とし穴と量の決め方
「ごはんを減らしているのに、身体が変わりません」「糖質制限で体重は落ちたけれど、ベンチプレスの重量まで落ちました」。年間1,500本のセッションを担当していると、食事の相談でいちばん多いのが炭水化物の話です。糖質は太るもの、筋トレをするなら控えるべきもの。そう思い込んで、ごはんを抜いている方が本当に多いと感じます。
結論から言うと、筋トレをする人にとって炭水化物は敵ではなく、トレーニングの燃料です。減らし方を間違えると、脂肪より先にトレーニングの質が落ち、守りたかった筋肉まで減りやすくなります。一方で、量とタイミングを決めずに食べれば、当然脂肪は増えます。必要なのは「抜く」か「食べる」かの二択ではなく、設計です。
この記事では、炭水化物が筋トレに必要な理由、糖質制限で筋肉が減りやすい仕組み、目的別・体重別の量の目安とごはん換算、トレーニング日と休みの日の配分、糖質の「質」の選び方、現場で見てきたNG例をまとめます。10月中旬、新米が店頭に並ぶ季節です。ごはんを怖がらずに食べながら身体を変える方法を、指導の現場から書きます。

炭水化物は筋トレの燃料 ― 糖質とグリコーゲンの話
炭水化物は、消化されるとブドウ糖になり、血液を通って全身に運ばれます。すぐに使われない分は、筋肉と肝臓に「グリコーゲン」という形で貯められます。筋トレのように短い時間で強い力を出す運動では、このグリコーゲンが主なエネルギー源として使われることが知られています。
筋肉は「糖を貯めて動く」
ベンチプレスやスクワットは、1回1回は数秒の動作でも大量のエネルギーを使います。そのときに使われるのが筋肉のグリコーゲンです。貯金が十分にあれば、最後のセットまで力が出ます。貯金が少なければ、2セットめから回数が落ち、普段なら挙がる重量が挙がらなくなります。
糖質を切ると、まず体重が落ちる理由
糖質制限を始めると、最初の1〜2週間で体重が1〜2kgほどするっと落ちることがあります。これを「脂肪が落ちた」と喜ぶ方が多いのですが、この時期に減っているものの多くは、グリコーゲンと、それと一緒に貯められていた水分です。グリコーゲンは水と一緒に貯まるからです。筋肉の張りがなくなり、見た目がしぼんだように感じるのはこのためです。脂肪が減る速さは、糖質を切っても切らなくても、結局は総カロリーの差で決まります。
「糖質制限で痩せた」の正体
糖質制限で痩せる方がいるのは事実です。ただ、その理由の大半は「ごはん・パン・麺・お菓子を減らした結果、総カロリーが減ったから」です。炭水化物そのものに、人を太らせる特別な力があるわけではありません。同じカロリーなら、炭水化物を減らしても脂質を減らしても、体重の落ち方に大きな差は出にくいとされています。違いが出るのは、トレーニングの質と、続けやすさです。
糖質制限で筋肉が減りやすい3つの理由
筋肉を増やしたい、減量中でも筋肉を守りたい。そう思って筋トレをしている方が炭水化物を切ると、狙いと逆のことが起きやすくなります。理由は3つです。
理由1:トレーニングの強度が落ちる
グリコーゲンが足りない状態では重量も回数も落ち、刺激が弱くなります。「糖質を切ってから、重量が伸びなくなった」という相談は、私のセッションでは珍しくありません。炭水化物を戻すと、数週間で重量も戻ることがほとんどです。
理由2:回復が追いつかない
トレーニングで減ったグリコーゲンは、次の食事の炭水化物で補充されます。補充が足りないまま次のトレーニングを迎えると、疲労が抜けず、筋肉痛も長引きやすくなります。
理由3:たんぱく質が「燃料」に回る
身体は、糖が足りなくなると、たんぱく質などから糖をつくって補おうとします。せっかく体重1kgあたり1.6〜2.2gのたんぱく質を摂っていても、その一部が筋肉の材料ではなく燃料として使われる方向に働きます。炭水化物を適量とることには、たんぱく質を筋肉のために温存する意味もあります。
なお、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」では、炭水化物の目標量は総エネルギーの50〜65%と示されています。一般の成人向けの基準ですが、「糖質はできるだけ減らすべき」という考え方とは、ずいぶん違う水準です。
筋トレをする人の炭水化物の量 ― 目的別・体重別の目安
私が指導で使っている目安は、体重1kgあたりの量で考える方法です。
| 目的 | 体重1kgあたり | 体重70kgの例 | ごはん茶碗(150g)換算 |
|---|---|---|---|
| 減量期 | 2.5〜4g | 175〜280g | 約3〜5杯分 |
| 維持・体型キープ | 4〜5g | 280〜350g | 約5〜6杯分 |
| 増量期 | 5〜6g | 350〜420g | 約6〜7.5杯分 |
茶碗換算はすべてをごはんで摂った場合の目安で、実際には果物や野菜からも入るぶん、ごはんは少なめになります。
計算の順番は「たんぱく質→脂質→残りが炭水化物」
総カロリーの枠から計算する場合は、たんぱく質(体重1kgあたり1.6〜2.2g)と脂質(総カロリーの20〜30%)を先に決め、残りを炭水化物に充てます。計算の手順は我慢しないダイエット ― フレキシブルダイエット入門で詳しく書きました。体重70kg・目標1,700kcalの減量なら、炭水化物はおよそ180〜200g。上の表の減量期の範囲に収まります。
減量中でも「体重×2g」は切らない
私が指導で線を引いているのは体重1kgあたり2g前後です。70kgの方なら140g。これを長く下回ると、トレーニングの質が目に見えて落ち、空腹と集中力の低下で食事管理そのものが続かなくなります。減量のペースは週に体重の0.5〜1%までが目安で、それより速いなら、炭水化物をさらに削るのではなく、ペースを緩める判断をしてください。
食品別・炭水化物の目安量
| 食品 | 量 | 炭水化物の目安 |
|---|---|---|
| ごはん(茶碗1杯) | 150g | 約55g |
| おにぎり | 1個 | 約40g |
| 食パン(6枚切り) | 1枚 | 約28g |
| うどん(ゆで) | 1玉(約250g) | 約50g |
| さつまいも | 100g | 約30g |
| オートミール | 40g | 約28g |
| バナナ | 1本 | 約20〜25g |
| 切り餅 | 1個(50g) | 約25g |
製品や炊き方で前後しますが、「ごはん茶碗1杯=約55g」と覚えておくと、1日の量を組み立てやすくなります。
いつ食べるか ― トレーニング日と休みの日の配分
トレーニングの前後に厚く
1日の合計を守ったうえで、トレーニングの前後に炭水化物を寄せるのが基本です。2〜3時間前にごはん中心の食事、直前ならおにぎりやバナナ、終わったあとの食事でたんぱく質と一緒に補充する。この型は減量中でも筋肉を落とさない食事の組み立て方でも書いた通りで、減量期も増量期も変わりません。体重70kg・減量期・夕方にトレーニングをする方の例を挙げます。
| 食事 | 内容 | 炭水化物 |
|---|---|---|
| 朝食 | ごはん150g+卵・納豆 | 約55g |
| 昼食 | ごはん150g+鶏むね肉・野菜 | 約55g |
| トレーニング前(16〜17時) | おにぎり1個 | 約40g |
| 夕食(トレーニング後) | ごはん150g+魚+味噌汁 | 約55g |
| 合計 | ― | 約205g |
休みの日は1〜2割減らす
トレーニングをしない日は、グリコーゲンの消費が少ないぶん、炭水化物を1〜2割減らしても構いません。上の例なら、トレーニング前のおにぎりを抜いて165g前後にする、という形です。ただし、たんぱく質は休みの日も減らしません。筋肉の修復は休みの日にも進んでいるからです。この考え方は「カーボサイクル」と呼ばれますが、補食を1つ抜く程度で十分です。
「夜に炭水化物を食べると太る」は本当か
夜のごはんを抜いている方は多いのですが、脂肪が増えるかどうかは、時間帯より1日の合計で決まります。むしろ仕事帰りにトレーニングをする方にとって、夕食は補充のいちばん大事な食事です。注意するのは量と、就寝までの時間。就寝2〜3時間前までに食べ終え、ごはんは茶碗1杯の範囲に収める。
何を食べるか ― 糖質の「質」の選び方
量が決まったら、次は中身です。同じ炭水化物でも脂質の有無や消化の速さが違い、場面で使い分けます。
主食が中心:ごはん・芋・オートミール
炭水化物の土台は、ごはん、さつまいも、じゃがいも、オートミール、そば、うどんなどの主食です。玄米や雑穀米は食物繊維が多く腹持ちがよいので、減量中の朝食や昼食に向きます。一方、トレーニング前は消化の速い白米やおにぎりのほうが、お腹が重くなりません。増量期に量を増やすときの主食の選び方は増量期の食事戦略でも触れています。
果物:1日1〜2個分を目安に
果物の糖は「果糖だから太る」と言われることがありますが、1日1〜2個分であれば、ビタミンや食物繊維の供給源として使ってかまいません。トレーニング前の補食には、バナナ1本がもっとも手軽です。
砂糖と甘い飲み物:枠の中で、少量を
菓子パン、ジュース、お菓子は、炭水化物に加えて脂質も多く、満腹感のわりにカロリーが高くなりがちです。禁止にする必要はありませんが、1日の炭水化物の枠の中で、1割程度までにとどめてください。「糖質オフ」と書かれた加工食品にも注意が必要で、糖質を減らすぶん脂質が増えているものがあります。裏面の表示で脂質の量を確認する癖をつけてください。
10月は新米の季節 ― 旬の炭水化物を「枠」で楽しむ
10月中旬、新米、さつまいも、栗が店頭に並びます。秋の味覚の多くは炭水化物ですが、同じ枠の中でごはんと入れ替えれば問題ありません。さつまいも100gはごはん100g分とほぼ同じ炭水化物量です。新米は茶碗に150gを量って盛る。それだけで、秋の食欲とは十分に付き合えます。
現場で見てきたNG例と、私自身の炭水化物の摂り方
NG例
- 糖質ゼロに近い食事で週4〜5回トレーニング → 2〜3週間で重量が落ち、停滞したまま減量も止まる
- ごはんを抜いた代わりに、ナッツ・チーズ・肉の脂が増える → 炭水化物は減ったのに総カロリーは変わらず、体重が動かない
- 平日に我慢して、週末に反動でラーメンやスイーツ → 週単位の合計では、減量前より多く食べている
- トレーニング前に何も食べず、途中で力が抜ける → 「追い込めなかった」のは根性ではなく燃料の問題
- 「糖質オフ」の表示を信じて加工食品を増やす → 脂質が増え、満足感は下がる
私自身の炭水化物の摂り方
私は11月12日のNatural Olympiaまで1か月を切り、減量の最終段階にいます。この時期でも、炭水化物は毎日摂っています。削るのはあくまで量で、ごはんを「抜く」ことはしません。炭水化物を切って一時的に軽くなるより、最後の1か月でトレーニングの強度を保つほうが、ステージでの仕上がりに直結すると考えています。
セッションでも、ごはんを抜いている方には「まず茶碗1杯を量って食べてください」とお願いしています。炭水化物を戻してから重量が伸び、見た目も締まってきた、という方を何人も見てきました。炭水化物は敵ではなく、使い方を知れば、いちばん頼りになる味方です。
よくある質問
Q. 筋トレをしている人は糖質制限をしてもいいですか?
極端な糖質制限はおすすめしません。炭水化物は筋トレの主なエネルギー源で、不足するとトレーニングの重量や回数が落ち、回復も遅れやすくなります。減量中であれば、炭水化物を完全に切るのではなく、体重1kgあたり2.5〜4gの範囲で量を調整し、トレーニングの前後に寄せる方法が、筋肉を守りながら脂肪を落とすうえで現実的です。体重1kgあたり2gを長く下回る食事は避けてください。
Q. 筋トレをする人は炭水化物を1日どのくらい食べればいいですか?
目的と体重で決めます。一般的な目安として、減量期は体重1kgあたり2.5〜4g、体型を維持する時期は4〜5g、増量期は5〜6gです。体重70kgの方なら、減量期で175〜280g、増量期で350〜420gになります。ごはん茶碗1杯(150g)の炭水化物が約55gなので、茶碗の杯数に換算すると量をイメージしやすくなります。2週間ほど体重の推移を見て、変化が速すぎれば増やし、動かなければ減らしてください。
Q. 夜に炭水化物を食べると太りますか?
時間帯そのものよりも、1日の合計量で決まります。夜に食べても、1日の枠に収まっていれば脂肪が特に増えやすいとはいえません。仕事帰りにトレーニングをする方にとっては、夕食がグリコーゲンを補充する大事な食事になります。気をつけるのは、就寝の2〜3時間前までに食べ終えることと、ごはんの量を茶碗1杯程度に収めることです。夕食を抜いて翌朝に空腹で反動が出るほうが、減量には逆効果です。
まとめ ― 炭水化物は「抜く」のではなく「設計する」
- 炭水化物は筋トレの主な燃料。グリコーゲンが足りないと、重量・回数・回復が落ちる
- 糖質制限で最初に落ちる体重の多くはグリコーゲンと水分。脂肪の減り方は総カロリーで決まる
- 量の目安は体重1kgあたり、減量期2.5〜4g・維持4〜5g・増量期5〜6g。減量中も2g前後は切らない
- 計算はたんぱく質→脂質→残りを炭水化物。「ごはん茶碗1杯=約55g」で換算する
- トレーニングの前後に厚く、休みの日は1〜2割減らす。夜のごはんは時間帯より合計量
- 主食と果物を中心に、砂糖と甘い飲み物は枠の1割まで。「糖質オフ」表示は脂質を確認する
今日できる一歩は、次の食事でごはんを「抜く」のではなく「量る」ことです。茶碗1杯、150g。新米がおいしいこの季節、燃料を正しく入れて、秋のトレーニングで重量を伸ばしてください。
