筋トレ中の水分補給と電解質 ― 量・タイミング・飲み物の選び方
「トレーニング中、水はどれくらい飲めばいいですか?」セッションでよく受ける質問です。ところが実際にジムで見ていると、ボトルをロッカーに置いたまま60分やり切る方と、休憩のたびにスポーツドリンクをがぶ飲みする方の両極端に分かれます。共通しているのは、「感覚で飲んでいる」ことです。
10月に入り、朝晩は涼しくなりました。夏のように「暑いから飲む」という意識は薄れますが、ジムの中は暖かく、トレーニングで出る汗の量は夏と大きくは変わりません。喉の渇きを感じにくくなるこの季節こそ、水分と電解質の補給は「感覚」ではなく「量と手順」で決めておく必要があります。
この記事では、トレーニング中に水分が足りないと何が起きるか、自分の発汗量を体重差から測る方法、前・中・後の飲むタイミングと量、水だけでよい場面と電解質を足すべき場面、飲み物の比較、減量期や朝トレなど状況別の飲み方を、年間1,500本のセッションで伝えている内容としてまとめます。1日全体の水分量については以前正しい水分補給の基本に書きましたので、今回はトレーニングの60〜90分に絞って掘り下げます。

トレーニング中に水分が足りないと何が起きるか ― 体重2%の脱水で落ちるもの
1時間の筋トレで出る汗は0.5〜1.5L
汗の量は環境・体格・強度で大きく変わりますが、一般的な目安として運動中の発汗量は1時間あたり0.5〜1.5L程度とされています。体重70kgの人が90分のトレーニングで1L汗をかけば、それだけで体重の約1.4%。飲まずにやり切れば、終わる頃には2%近い脱水になっている計算です。
2%の脱水で持久力・集中力が落ち始める
体重の2%程度の水分が失われると、持久的なパフォーマンスや集中力が低下しやすいことが一般的に知られています。筋トレのような高強度・短時間の運動では影響が比較的小さいとも言われますが、私が現場で見ている限り、水を飲まずにやっている方は後半のセットで回数が落ち、フォームが乱れ、「今日は調子が悪い」で片づけてしまうケースが目立ちます。脱水は痛みも出ないので、原因として疑われにくいのです。
秋こそ見落とされやすい3つの理由
- 喉の渇きを感じにくい ― 気温が下がると渇きのサインが鈍ります。渇きを感じた時点で、すでに軽い脱水が始まっていると考えられています
- 汗が乾きやすく「かいていない」と錯覚する ― 湿度が下がると汗はすぐ蒸発し、ウェアが濡れないので出た量を過小評価します
- 飲む習慣が夏で終わる ― 「暑いから飲む」が消えて、ボトルを持ち歩く習慣そのものが途切れます
自分の発汗量を測る ― 前後の体重差で「1時間あたり何ml」を知る
「何ml飲むべきか」の答えは、人によって2倍以上違います。だから最初にやってほしいのが、自分の発汗量を一度測ることです。必要なのは体重計だけで、手順は4つです。
- トレーニング前、トイレを済ませてから軽装で体重を測る
- トレーニング中に飲んだ量を記録する(ボトルの目盛りで十分)
- 終了後、汗をタオルで拭き、同じ服装で体重を測る
- 発汗量=(前の体重-後の体重)+飲んだ量。これをトレーニング時間で割る
例えば、前70.0kg・後69.4kg、飲んだ量500ml、時間90分なら、600ml+500ml=1,100mlが90分の発汗量で、1時間あたり約730mlです。この人は「1時間に700ml前後」が汗で出ている、と分かります。目安として、発汗量ごとの飲み方を表にまとめます。
| 1時間の発汗量 | 該当しやすい条件 | トレーニング中の飲み方 | 電解質 |
|---|---|---|---|
| 〜500ml | 涼しい室内・60分以内・低〜中強度 | 15〜20分ごとに一口〜100ml、合計300〜500ml | 水だけで十分 |
| 500〜1,000ml | 一般的な筋トレ60〜90分・暖かい室内 | 15〜20分ごとに150〜200ml、合計500〜800ml | 90分を超えるなら少量 |
| 1,000ml〜 | 高強度・長時間・有酸素併用・汗かき体質 | 15〜20分ごとに200〜250ml、合計800ml〜 | 必要(塩分入り) |
汗の量を、運動中に完全に飲んで補う必要はありません。一般には失った分の6〜8割程度を運動中に補い、残りは運動後の食事と飲み物で戻すと考えると現実的です。トレーニング前後の体重差が2%以内に収まっていれば、飲み方は合格と考えてよいでしょう。
いつ・どれくらい飲むか ― 前・中・後の実践プロトコル
| タイミング | 量の目安 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 2〜3時間前 | 体重1kgあたり5〜7ml(70kgで350〜500ml) | 水・お茶 | 尿の色が薄い黄色になっていることを確認 |
| 直前(10〜20分前) | 150〜250ml | 水 | コップ1杯。一気に飲むと胃が重くなる |
| トレーニング中 | 15〜20分ごとに150〜250ml | 水(90分超・大量発汗なら電解質入り) | セット間に「一口〜二口」を繰り返す。がぶ飲みしない |
| トレーニング後 | 減った体重1kgあたり1.2〜1.5L | 水+食事、または電解質入り | 2〜4時間かけて。食事に含まれる塩分・水分も補給になる |
「喉が渇いたら飲む」では遅く、「飲めるだけ飲む」も間違い
渇きは遅れて出るサインなので、渇きではなく時間で飲むのが基本です。一方で、長時間の運動中に水だけを短時間で大量に飲み続けると、まれに血中のナトリウム濃度が薄まる状態が起きることが知られています。筋トレの60〜90分でそこまでいくことはまずありませんが、「多ければ多いほどいい」という思い込みは外してください。汗の量に見合った量を、汗が多い日は電解質と一緒に、が答えです。
尿の色は簡単なチェック指標
トレーニング前に、薄いレモン色から淡い黄色なら概ね良好。濃い黄色や麦茶のような色なら、始める前にコップ1〜2杯を足してください。逆に透明に近いなら飲みすぎている可能性があります。ビタミン剤で色が変わることもあるので、あくまで目安です。
電解質はいつ必要か ― 水だけで足りる場面と足りない場面
汗には水だけでなく、ナトリウムをはじめとした電解質が含まれています。一般に汗1Lあたりのナトリウムは0.5〜1.5g程度(食塩相当量でおよそ1〜4g弱)と幅があり、個人差がとても大きいのが特徴です。ウェアやキャップに白い塩の跡が残る人は、汗の塩分が多いタイプと考えられます。
水だけでよい場面
- 60分以内で終わる筋トレ
- 涼しい室内で、発汗が1時間500ml以下
- 1日3食を普通に食べていて、塩分が不足していない
この条件なら電解質は食事で十分に入るので、トレーニング中は水でよいでしょう。
電解質を足したい場面
- 90分を超える、または有酸素運動を併用してトレーニング時間が長い
- 汗の量が1時間1Lを超える、ウェアに塩の跡が残る
- 減量中で、食事量と塩分量が少ない
- 朝トレで、食事の前にトレーニングする
- 連日のトレーニングや1日2回のトレーニングで、前回の汗が戻り切っていない
- トレーニング後半に足がつりやすい、頭痛やだるさが出る(脱水以外の原因もあるので、続くなら医師に相談してください)
飲み物の比較 ― 水・スポーツドリンク・経口補水液・自作
| 飲み物 | 糖質(100mlあたり目安) | 塩分 | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 水 | 0g | なし | 60分以内の筋トレ全般 | 長時間・大量発汗では電解質が不足する |
| スポーツドリンク | 4〜6g前後 | あり | 90分超・高強度・増量期 | 500mlで糖質20〜30g。減量中は量に注意 |
| 薄めたスポーツドリンク | 2〜3g | あり(薄まる) | 吸収を優先したい長時間の運動 | 薄めすぎると電解質も足りなくなる |
| 経口補水液 | 1〜2.5g程度 | 多い | 大量発汗時・体調不良時 | 塩分が多く、日常のトレーニングで常用するものではない |
| 自作(水500ml+塩1g弱+はちみつ大さじ1+レモン) | 約3g | あり | 減量期・汗が多い人 | 塩は1gまで。多すぎると胃に来る |
| お茶・コーヒー | 0g | なし | トレーニング前の水分として可 | 習慣的に飲む人ではカフェインの利尿はわずかとされるが、「それだけ」にはしない |
EAAやBCAAをトレーニング中に飲む方も多いですが、これらは水分補給の代わりにはなりません。優先順位は、水と電解質、次に糖質、サプリメントはその後です。この考え方はサプリの優先順位で詳しく書いています。
状況別の飲み方 ― 減量期・増量期・朝トレ・有酸素併用
減量期 ― 塩を「足す」ほうがよいことが多い
減量中は食事量が減って塩分も自然と減り、加えて水を意識的に飲むので、体内の電解質が薄まりがちです。糖質は摂りたくないので、スポーツドリンクではなく、水1Lに塩1g弱を溶かしたものか、糖質なしの電解質パウダーが現実的です。また、空腹感と喉の渇きは混同されやすく、「お腹が空いた」の何割かは水分不足だった、ということもよくあります。
増量期・高重量の日 ― 糖質入りを「トレーニング中の燃料」に使う
増量期や高重量・高ボリュームの日は、トレーニング中に糖質を摂ることで後半のエネルギー切れを防げます。スポーツドリンク500ml(糖質25〜30g前後)を90分かけて飲めば、水分・電解質・糖質を同時に補給できます。ここでも、セット間に一口ずつが基本です。
朝トレ ― 起きた時点ですでに軽い脱水
睡眠中は呼吸と皮膚から水分が失われ、起床時は軽い脱水状態になっています。起きたらまずコップ1〜2杯(300〜500ml)を飲み、トレーニングの30分前までに飲み終えてください。朝食を食べずにトレーニングする場合は、電解質入りを1本持っていくと、後半の失速が減ります。
有酸素運動を併用する日 ― 汗の量が跳ね上がる
筋トレの後にランニングやバイクを30分入れる日は、汗の量が普段の1.5〜2倍になることも珍しくありません。この日は「筋トレ用の水」と「有酸素用の電解質入り」の2本を用意するのが、私の勧め方です。順番の組み方は有酸素運動と筋トレの正しい順番で解説しています。
現場でよく見るNG例と、私自身の飲み方
NG例
- ボトルをロッカーに置いたまま ― 取りに行く手間が「飲まない理由」になります。ボトルはラックの横へ
- 休憩のたびにがぶ飲み ― 胃が重くなり、次のセットで力が入りません。一口を回数で稼ぐ
- 毎回スポーツドリンクを1L ― 糖質50〜60g、減量中なら間食1回分です。目的に合わせて選ぶ
- 「飲むと汗が出るから飲まない」 ― 汗は体温調節に必要なもので、我慢で得られるものはありません
- コーヒーやエナジードリンクだけ ― カフェインの覚醒効果と水分補給は別の話です。水を別に持つ
私自身の飲み方
11月のNatural Olympiaに向けた減量終盤の今、トレーニング中は1Lのボトルに水と塩1gほどを入れ、セット間に必ず一口飲むと決めています。「飲みたいかどうか」は判断しません。セッション前後の体重も記録し、差が1kgを超えた日は、翌日の水分と塩分を意識的に増やします。9年の競技経験で分かったのは、減量中のパフォーマンス低下の一部は、カロリー不足ではなく水分と塩分の不足だった、ということです。
よくある質問
Q. 筋トレ中の水分補給は何mlが目安ですか?
一般的な目安は、15〜20分ごとに150〜250ml、60〜90分のトレーニングで合計500〜800ml程度です。ただし発汗量は人によって2倍以上違うため、トレーニングの前後に体重を測り、減った分が体重の2%以内(70kgなら1.4kg以内)に収まる量を自分の基準にしてください。一度に大量に飲むより、セット間に一口ずつ回数を分けて飲むほうが胃への負担が少なく、後半のセットまで力が安定します。
Q. 筋トレ中はスポーツドリンクと水のどちらがいいですか?
60分以内の筋トレで、普通に食事を摂っているなら水で十分です。90分を超える、汗の量が多い、有酸素運動を併用する、増量期でトレーニング中の糖質を活かしたい、といった場合はスポーツドリンクが向きます。減量中は糖質を避けたいので、水に塩を少量加えるか、糖質なしの電解質パウダーが現実的です。経口補水液は塩分が多く、大量に汗をかいたときや体調不良時向けのものと考えてください。
Q. 筋トレ中に水を飲みすぎるとどうなりますか?
一度に大量に飲むと胃が重くなり、次のセットで力が入りにくくなります。また、長時間の運動で水だけを何リットルも飲み続けると、まれに血中のナトリウム濃度が薄まる状態が起きることが知られています。通常の60〜90分の筋トレで心配するほどの量になることはまずありませんが、「多ければ多いほどよい」わけではありません。汗で失った量に見合った水分を、電解質とともに、時間を分けて飲むのが基本です。
まとめ ― 「喉が渇いたら」ではなく「時間と量」で飲む
- 1時間の筋トレで出る汗は0.5〜1.5L。体重2%の脱水でパフォーマンスは落ち、秋は渇きを感じにくく見落としやすい
- まず一度、前後の体重差で自分の発汗量を測る。1時間あたりの量が分かれば、飲む量はそこから決まる
- 2〜3時間前に350〜500ml、直前にコップ1杯、トレーニング中は15〜20分ごとに150〜250ml、終了後は減った体重1kgあたり1.2〜1.5L
- 60分以内・普通の食事なら水で十分。90分超・大量発汗・減量中・朝トレは電解質を足す
- スポーツドリンクは糖質の量を、経口補水液は塩分の多さを踏まえて使い分ける。減量中は塩水か糖質なしの電解質
- ボトルはラックの横。がぶ飲みではなく、一口をセット間に繰り返す
今日できる一歩は、次のトレーニングの前後に体重を測ることです。その差が、あなたに必要な水の量を教えてくれます。そしてボトルをロッカーから出して、ラックの横に置いてください。
